母娘問題を男性にも知ってほしい

【菅野】90年代以前は、母親への嫌悪をストレートにまだ出せなかったけれど、その後はだいぶ意識が変わってきたんですね。昔から潜在的にテーマとして描かれていたのに、なぜなかなか問題としては捉えられなかったのでしょうか。

【三宅】これまで言いづらかった原因の一つは、男性から「母娘問題はヘビーすぎて手をつけられない」と思われていたからではないでしょうか。実際、私の周りの男性からも「母娘問題をどうしていいかわからない」という声を聞くことがあるので、こういう本をきっかけにして男性にも知ってほしいと思います。

家庭内で父親がもう少し存在感を出して母と娘の間に入り込んだり、父親ではなくても母親以外の他者が間に入ってくれたりしたら、少しは状況が変わるのではないでしょうか。

【菅野】斎藤環先生は、男性には母娘問題がピンとこないので、教養の一部のようなものとして受け止められてしまうとおっしゃっていました。男性に理解してもらうのは、なかなか難しいんですよね。

女性たちは漫画や小説にずっと救いを求めてきた

【菅野】いずれにしても、70年代、あるいはそれ以前からかもしれませんが、女性たちはこういう漫画や小説にずっと救いを求めてきたということなのでしょうね。これって、社会にとっても個人にとっても、もっとフォーカスすべき重要なテーマだと思うんですよね。

【三宅】そうだと思います。だからこそ、作者自身が母娘の葛藤を大事なテーマとして描き続けてきたのではないでしょうか。

ただし、その葛藤は必ずしも母と娘というかたちではなく、少年のかたちに置き換えてはじめて描けるというものも多かったと思います。女性同士では生々しすぎるけど、萩尾望都先生の『残酷な神が支配する』などのように、少年の話にすることでおもしろく読めるということもあったのかもしれません。

【菅野】私も、三宅さんがおっしゃる文脈で男性同士・少年同士の物語をたくさん読んできました。私にとってはそれが「欲望」の一つで、そうした表現に間接的に救いを求めていたのかもしれません。

まさに、作家たちが「親」的な役割を果たしてくれたんですよね。

ノンフィクション作家の菅野 久美子氏(左)と書評家・作家の三宅 香帆氏(右)。