AIが発達しても知識の価値は下がらない
社会人が独学でリスキリングする場合の難点は、カリキュラムの不在です。そこでもChatGPTが役立ちます。自分の学習がどこまで進んでいるかを説明し、「資格試験に合格したい」などの目標を指し示します。すると合格するためには、どの程度の勉強と時間が必要かを割り出し、対応したカリキュラムをつくってくれるのです。
特にChatGPTが有効なのが、外国語学習です。これまでは、外国語の文章を読んでいて意味のわからない単語が出てきたら、辞書を引いて意味を文章に当てはめ、文法の知識と組み合わせて解釈し、理解していました。つまり、単語から始めて、全体の理解を積み上げていたわけです。
しかしChatGPTを使えば、いちいち辞書を引かずに、文章全体を理解することが可能になります。まず、ChatGPTに全体を翻訳してもらいます。長い文章なら、要約でもよいでしょう。その訳を読んで全体の意味を摑んでから、英文を読む。つまり、すでに大意がわかっている英文を読むのです。先に全体を把握しておけば、わからない単語が出てきても、文脈から意味を推測できます。そのうえで、全体の文章を繰り返し読んで暗記します。
このような読み方でChatGPTを活用すれば、外国語の文章を最初からひとつずつ読解してから次へ進むという非効率的な勉強法から脱却できます。部分から全体への理解ではなく、全体から部分への理解です。日本語の文章を無意識に読みこなしているのと同じ読み方が、できるようになるのです。
ChatGPTには、自分の書いた外国語を添削してもらうという活用法もあります。直してもらった文章を暗記すれば、書くトレーニングと話すトレーニングが同時にできます。
学びたい文章の正確な音読を、手軽に聴けるようになったことも大きなメリットです。ビジネスパーソンに必要な外国語は専門分野の専門用語であって、挨拶の言葉などではありません。しかしこれまで、専門用語が正しく発音されている音源に接する機会は、限られていました。
このように、ChatGPTは自在な使い方ができるので、自分だけの優秀な家庭教師になります。前述した「1日1語検索」を、ChatGPT相手に行うのも有効です。会話を続けると非常に面白い答えが返ってきます。何を質問すればいい答えが返ってくるかを考えるようになり、こちらの知識や問題意識が磨かれていきます。
ただし、進化途中の現状では弱点もあるので、依存しすぎは禁物です。分野としては数学が苦手で、間違った回答をすることもあります。「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象です。もっともらしい誤答を出されて惑わされないためには、書籍や検索エンジンを使って確認する必要があります。
ハルシネーションが起こる原因ははっきりしないのですが、ChatGPTが事前学習に利用した文献や資料の中に誤った情報が含まれているためではないかと考えられています。そこで、同じ問題について違う形で質問したり、ChatGPTが教えてくれた言葉を検索語として検索してみるといいでしょう。確率的な原因によって起こるのであれば、問いを変えれば違う答えが出てくるはずだからです。
独学では、どれだけ勉強したかをほかの人に知らせにくいので、確認するプロセスが欠かせません。そのためのデジタルツールとして、「オープンバッジ」があります。資格試験や検定に合格したり、大学でプログラムを受講したことなどを証明するデジタルツールです。世界共通の技術標準規格に沿ったものなので、世界中で活用が広がっています。つまり、自分が勉強した成果を可視化できるのです。
AIが発達した昨今、「もはや知識は必要なくなった」という意見もあります。しかしこの先も、知識の価値が低くなることはありません。AIは人間の手助けをするものであって、代わりはしてくれないのです。勉強の基本は好奇心と疑問ですが、AIには好奇心がなく、疑問を抱くこともできません。
好奇心から学んで身につけた知識は、人間を次の疑問へと誘います。独学の必要性と重要性は、これからも増すばかりだといえます。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。