「麻生派を離脱することはない」
麻生氏が重視するのは、決選投票に残ることができるかだ。知名度も人望もない茂木氏は、出馬に必要な20人を確保できても、その先の展望がないと判断したのだろう。麻生氏は馬を乗り換えるのに躊躇しなかった。
8月16日には都内で河野氏と面会し、総裁選に出馬する意向を伝えられ、了承した。麻生派には河野氏と距離がある甘利明元幹事長、鈴木俊一財務相らもいるが、派内の中堅・若手の支持は固めやすくなるのだろう。
麻生氏が河野氏を総裁候補として認め始めたのは、6月26日夜の会談だったと聞く。麻生氏が河野氏の出馬に否定的な考えを示したと伝えられたが、河野氏の「成長」も読み取った。河野氏は「脱原発」政策を問われ、「時代が変わった。生成AI(人工知能)が発展し、データセンターのニーズが増えた。電気自動車(EV)も普及している。今は原発を再稼働し、再エネから核融合までエネルギー確保に何ができるか検討しないといけない」と、その“変節”ぶりをアピールしたという。
関係筋によると、麻生氏の琴線に触れたのは、河野氏が麻生派(志公会)を離脱することはないと明言したことだ。河野氏は「自分は麻生派(為公会)発足時(2006年)からのチャーターメンバーだ」と語ったとされる。
麻生氏は8月9日夜には、河野氏と東京・赤坂の日本料理店で会食し、総裁選の構図をめぐって情勢分析もしていたという。
衆院早期解散含みの大混戦総裁選
キングメーカー同士の暗闘や派閥の合従連衡とは異なる政治力学も働いているのが、今回の総裁選の特色だ。麻生派を除く派閥が解散を決定し、派閥の縛りが解けたことで、中堅・若手が動きやすくなった状況が生まれている。首相の「気兼ねなく」発言もあって、8月19日現在、出馬に意欲を示したり、期待が寄せられたりしている議員は11人に上る。年齢構成は40代が2人、60代以上が9人だ。
大混戦が予想される中で、20人の推薦人を既に確保したのが、林、河野、石破3氏と「コバホーク」の異名がある小林鷹之前経済安全保障相(二階派)で、次々に出馬表明する。林氏は岸田派、河野氏は麻生派を支持母体とする。小林氏は、知名度不足ながらも「世代交代」を掲げ、安倍派の福田達夫元総務会長、無派閥の大野敬太郎総務副会長らに推され、総裁選に新風を吹き込む構えだ。
出馬に意欲を示すのは、茂木、加藤、上川3氏のほか、高市早苗経済安全保障相(無派閥)、野田聖子元総務相(同)がいる。高市氏は、小林氏と保守系支持層が重なる。茂木氏は、当てにしていた麻生派の支持が得られず、同じ茂木派の加藤氏が出馬準備に入ったことで、議員票の目算が狂ったのではないか。
出馬を期待する声が上がっているのは、小泉氏、斎藤健経済産業相(同)だ。小泉氏が出馬すれば、菅氏のグループや各派横断の中堅・若手が推す方向で、世代間抗争を象徴する形で有力候補に躍り出るだろう。
推薦人20人の争奪戦は日々激化し、最終的に出馬できるのは6~7人に絞られるはずだ。前代未聞の本命なき総裁選、そして衆院早期解散含みの総裁選が始まる。