「国民に刷新感を示すことが重要だ」

 衆院解散が見送られた通常国会の閉幕を待って「岸田降ろし」の号砲が鳴った。

自民党「非主流派」の中核にいる菅義偉前首相が、6月23日に配信された文藝春秋電子版のオンライン番組で、派閥による政治資金規正法違反事件をめぐる岸田文雄首相の対応を批判し、9月の総裁選では国民に「刷新感」を示すことが重要だ、との認識を明らかにした。事実上の退陣要求である。

菅氏は「ポスト岸田」候補とされる河野太郎デジタル相(麻生派)や小泉進次郎元環境相(無派閥)の後ろ盾を任じ、石破茂元幹事長(同)とも気脈を通じている。キングメーカーへ新たに名乗りを上げたということだろう。

自民党の萩生田光一前政調会長、小泉進次郎元環境相らと会談に臨む菅義偉前首相=2024年6月6日午後、都内
写真=時事通信フォト
自民党の萩生田光一前政調会長、小泉進次郎元環境相らと会談に臨む菅義偉前首相=2024年6月6日午後、都内

これに対し、政権を司る「主流派」の主軸である麻生太郎副総裁は、岸田首相の政権運営に不満を持ちつつ、総裁再選を見限ってはいないという微妙な距離を保ち続けている。当の首相は6月21日、国会閉幕を前に首相官邸で記者会見し、9月の総裁選への再選出馬に意欲をにじませ、唐突に電気・ガス料金の追加軽減策を3か月間実施するほか、年金世帯や低所得者世帯を対象に新たな給付金を検討する方針を明らかにした。

総裁選をめぐっては、岸田氏不出馬に備えて、茂木敏充幹事長も、麻生氏のカードに数えられている。

麻生、菅両氏は、党内の一定数の議員を動かす力を有し、総裁候補の有力者やその支援者と会食を重ね、感触を探っている。候補乱立も予想される総裁選をどう仕切り、主導権をどう握っていくのか、新旧キングメーカーの最終決戦が近づいてきている。

総裁選は「貸し借り」の総決算の場だ

自民党総裁選は、最大の権力闘争ゆえに永田町の「貸し借り」の総決算の場だった。

貸し借りは、過去の総裁選などでの支援態勢、政治・選挙資金、党4役・閣僚など重要ポストの提供、高級店での会食の会計、官庁・団体などの情報・口利きなどによって作られる。貸しが多い実力者が、総裁選で借り方から国会議員票という形で返してもらうことで、貸し借りの一部が清算された。