安倍元首相もできなかった大転換

麻生氏は8月6日夜、森山氏と都内の日本料理店で会談し、岸田政権の3年間の実績を評価し、森山氏も同調したと報じられた。両氏とも首相退陣の意向を嗅ぎ取って政権を総括して見せたのかも知れない。

河野太郎・デジタル大臣
出典=首相官邸ホームページ(第2次岸田第2次改造内閣 閣僚等名簿より)河野太郎・デジタル大臣

麻生氏も高く評価するのは、第1に防衛力の抜本的強化だ。2022年12月に国家安全保障戦略など3文書を改定し、反撃能力の保有、防衛費の国内総生産(GDP)比で2%への倍増を明記するなど、戦後の安全保障政策を大転換させた。

第2はエネルギー政策だ。原子力発電所の再稼働や次世代原発の開発・建設の検討を決断し、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出も進めた。長期政権を担った安倍晋三元首相(2022年7月死去)もできなかった大転換である。

その一方で安倍氏から後を託され、任期中に実現すると公言していた憲法改正は果たせなかった。自ら掲げた「新しい資本主義」は道半ばで、物価と賃上げの好循環を目指しながら、デフレ脱却宣言には至っていない。

その首相が退陣に追い込まれたのは、直接的には政治とカネの問題とそれへの対応の拙劣さ、政治技術の未熟さが問われたためだったが、ベースにあるのは、首相としての資質と力量の問題だろう。

自らを処分の対象外にしたことに遠因

岸田首相は、政局判断や政策を立案する際に、要路に根回しをしないまま、木原氏ら側近と相談するだけで、物事を進めて行く。周囲や党幹部がメディアを通じて首相の考えを知ることも珍しくない。事前に情報共有されれば、協力しようとなるが、岸田首相にはなぜかそれがない。自分の独断がどういう影響を及ぼすかという想像力も決定的に欠ける。

危機管理対応に当たって「火の玉になる」「先頭に立つ」と勇ましい言葉を発するが、日ごろから人間関係を築いていないため、それを支えて実行に移す仲間や部下がいない。その役職にある人が首相の思うように動かないのだ。竹下登元首相が、どのボタンを押せば、誰がどう動くのかを把握していたのとは雲泥の差がある。

岸田首相が先の国会閉幕直後、非主流派を束ねる菅義偉前首相による「岸田降ろし」に見舞われたのは、4月の党紀委員会で、安倍、二階両派議員ら39人を処分しながら、自らを処分の対象外にしたことに遠因があった。

首相は当時、自らの政治責任について「政治改革に向けた取り組みをご覧いただいたうえで、最終的には国民、党員に判断してもらう立場にある」と言い放っていた。解散・総選挙で国民に、総裁選で党員の審判を仰ぐというこの発言は無責任で、菅氏や安倍、二階両派などの間に「反岸田」の空気が醸成され、党内に広がったのである。