④の「企画成立の歪み」については、企画採択の仕組みを変えることを提案したい。「キャスト先行型」や「キャスト依存」の考え方をやめて、「内容重視」で採択の可否を決めることを徹底してはどうか。本来、テレビの番組はそうであった。「おもしろい」と心底思えるものを企画して自信をもって通し、実現化してきた。いつからか「キャスト」や「原作」が押さえられていることが優位性を持つようになり、「必須条件」に近いものになっていった。そういった歪みを是正するときなのではないだろうか。

ドラマの脚本を作ったうえで、原作者の同意を得るべきだが…

そして今回の事件を受けた提言をおこなう。これが最初に述べた、テレビの構造的な欠陥を浮き彫りにする視点の②「前回提案した『オリジナルを増やす』ことしか、打開策はないのか?」である。

私はドラマにおいて「オリジナル脚本」の作品を増やすべきだと述べたが、実はすでにオリジナル脚本は増えつつある。特に、若い世代の脚本家たちが新しい発想のドラマを構築し始めている。例えば、医療機関で働きながら脚本を学び、フジテレビヤングシナリオ大賞でデビューした生方美久氏やマネージャー業を経てTBS連ドラ・シナリオ大賞入選を果たした大北はるか氏など、独自のスタイルでオリジナル作品を数多く発表している。

生方氏は「silent」「いちばんすきな花」、大北氏は「ユニコーンに乗って」「女神テミスの教室」などで世代を超えて支持をされているが、いずれもオリジナルだから自由に描ける世界観が特徴だ。

そして今回、私が提言する「オリジナルを増やす」こと以外の打開案は、冒頭で挙げた私のHPに寄せられた質問に応えるものとなる。それは、「原作モノ」の場合は、脚本を作ってから制作に着手してはどうか、ということである。つまり、原作を基に脚本を作り、その台本で原作者側と同意したうえで、撮影に入るという手順を踏むことだ。

写真=iStock.com/nicoletaionescu
※写真はイメージです

「時間」と「カネ」がかかる…テレビ局が二の足を踏む根本理由

だが、このやり方は実は非常に困難だ。理由は、「時間」と「カネ」がかかるからだ。例えば、レギュラードラマ11回分の脚本を全部作り上げようと思うと、3カ月ほどかかる。それを待っていられるかということだ。今回の「セクシー田中さん」の場合は、6月に原作者と合意したとのことだが、それから全話の脚本を作っているととうてい10月の放送には間に合わない。撮影後に放送までの「ポスプロ」と呼ばれる編集や音の作業、色調整などには最低でも1カ月はかかるからだ。

また、もし脚本化をしても原作者側との合意に至らなかった場合は、脚本をドブに捨てることになる。1本あたりの1時間ドラマの脚本料は、脚本家のランクにもよるが、だいたい100万円前後であるから、ボツになれば11回分の計1100万円を無駄にする。さらに、原作を押さえておくための「オプション契約」にかかるお金もある。

オプション契約とは、原作者に対価(オプション料)を支払うことで、一定期間(オプション期間)、映像化の権利を担保する契約のことである。特定の局と原作者側でオプション契約を結ぶと他局は手を出せないため、安心して準備をすることができるが、映像化が実現しなかった際にはオプション料は戻ってこないというリスクがある。ただし、映像化が実現すると、オプション料は映像化権料に集約される。このオプション料は数百万にのぼる場合もあり、不安定な状態においての出資として局が二の足を踏む要素となっている。