2024年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。テレビ・芸能部門の第2位は――。(初公開日:2024年2月10日)
人気ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ)の原作者・芦原妃名子さんが急逝した。亡くなる直前、芦原さんは「原作から大きくかけ離れた別人のようなキャラクターに変更される」などと、ドラマの脚本をめぐるトラブルをSNSに投稿していた。なぜテレビ局は原作通りの映像化を進めなかったのか。テレビ東京でドラマ・プロデューサーを長く務めた、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「原作モノのドラマを映像化するためには、4項目を完璧に遂行する必要がある。しかし、今の日本のテレビは、それができる時間も、カネも、余裕もない構造的な欠陥を抱えている」という――。(後編)

テレビ局が、原作マンガを原作通りにドラマ化できない理由

前回、私は「今回の“不幸な”事件がなぜ起こってしまったのか」という原因として、①「ドラマ偏重主義」からくる「ドラマ多産化現象」と②コミュニケーションの断絶を挙げた。その後、大きな反響と意見や質問を皆さんからいただいた。

私のHPには、「なぜ脚本を先に作ってから制作に入らないのか? それの方が安全だし、もめることもないのでは?」という質問コメントも寄せられた。書き足りないことがずいぶんあったなぁと反省しきりだった。

したがって、今回はさらに深くこの問題を掘り下げ、抜本的な原因を探ってみようと思う。今回の“不幸な”事件は決して突発的なものではない。テレビの構造的な欠陥に起因していると私は分析している。そして、それをよく理解し改善してゆかないと、また同じような“不幸な”事件は起こってしまうと危惧している。

したがって、今回は私が経験したことを含め、なるべく具体的な事例を挙げて、わかりやすく説明してゆきたい。

だからテレビが原作に改変を強いる

まず、この場ではっきりと言っておきたい。「原作モノ」ドラマを原作通りに映像化するのは、いまの日本のテレビでは無理だ。それが、「テレビが原作に改変を強いる」最大の理由である。

では、なぜ「原作モノ」を原作通りに映像化するのはいまの日本のテレビでは無理なのか?

本稿ではその理由を徹底的に突き詰めてゆくことで、テレビの構造的な欠陥を浮き彫りにする。その際に視点となるのは、以下の3つである。

①プロデューサーの責任論……プロデューサーは何をしていたのか?
②前回提案した「オリジナルを増やす」ことしか、打開策はないのか?
③リスクマネージメントや想像力の欠如……これは、社会全体やほかの業界にも共通する

最初に、ドラマの原作となる小説やマンガの作者である「原作者」には、以下の2つのタイプがあることを押さえておきたい。

①「お任せします」タイプ
②「チェックさせてください」タイプ

①の「お任せします」タイプは、「どうぞ、ご自由に改変していただいて結構です」と述べる作者である。この場合には、制作者は登場人物の設定やストーリーを都合よく変えることができるし、脚本家は自由にシナリオ化することもできる。②の「チェックさせてください」タイプの場合はその逆だ。これら①と②の間には段階があって、「基本的にはお任せしますが、最後のチェックはさせてください」と言われるケースなどさまざまだ。