レトルトっぽくない、生ハーブと大きな具材

林は教えてくれた。

「カップに具を入れて最後に混ぜる製法はレトルトでは一般的で、比較的大きな具材の投入時に使用します。ただ一般的には具材のうち1種類か2種類なんですが、うちのタイカレーは4種ほどの具材をカップで固形投入しています。そのため食べた時、大きな具がごろごろと入った見映えにつながっています」

ヤマモリのタイカレーの特徴は生ハーブ、そして大きな具材なのである。ここで製造したタイカレーなどレトルト食品の生産量は日産で約5トンという。

筆者撮影
蟹を使ったプーパッポンカレー。たまごを混ぜることで辛さがおさえられ、日本人にも食べやすい味わいだった

工場のなかには生のハーブ類があった。コブミカンとスズメナス(小さなナス)だ。栽培しているのはタイの北部に点在する契約農家。そこから運んできて選別、洗浄して使う。ハーブ類のうち、レモングラスはすでにカレーソースのなかに入っていた。

「タイ馬鹿」の情熱がグリーンカレーを広めた

コブミカンは名前の通り、表皮がごつごつしたミカン。食べても果肉は渋い。使うのは葉っぱと果皮だ。どちらもカレーソースの香りづけになる。葉っぱは洗ったものをそのまま入れる。果皮はすりつぶしてカレーペーストに混ぜる。ただし、少量である。あくまで果皮と葉っぱだけ。果肉、果汁は使わない。普通のミカンであれば捨ててしまうところを使うのがコブミカンという果実の面白い特性だ。

筆者撮影
コブミカンの果皮。表面がゴツゴツしている柑橘類で、日本の気候で栽培することは難しいという

スズメナスはタイカレーになくてはならない具材で、見た目は大きなグリーンピースだが、食べるとナスの味がする。

極端なことを言えば会長の三林は生ハーブと、このふたつのタイ野菜のために現地工場を建てた。だが、彼が決断しなければ日本に生ハーブを使ったタイカレーは登場しなかっただろう。そして、乾燥ハーブで仕上げていたら、コンビニでいつでも買えるような日常の商品にはならなかっただろう。

三林の本物志向が日本とタイの両国にとって大きなビジネスになったのである。彼は自身を「タイ馬鹿」と称しているが、タイ馬鹿だからこそコブミカンとスズメナスのために進出したのである。