舌鋒鋭いトランプ氏でも討論会への戦略再構築が迫られる

元検事だけあってハリス氏のディベート力は相当な強みだ。テレビ討論会でバイデン大統領を選挙戦撤退に追い込んだトランプ氏であっても、ハリス氏とのテレビ討論会は戦略再構築が迫られたものと考えられている。実際トランプ氏は、バイデン氏と合意していた9月10日のABCテレビ(リベラル系)主催の討論会を白紙に戻し、9月4日にFOXテレビ(保守系)主催で討論会を開催することに合意したと一方的に発表した。その後、トランプ氏は8日、9月4日と10日、25日に米テレビ局と大統領選の討論会を開くと合意したと述べた。

いずれにしても大統領候補に対して、アメリカ国民は「強さ」を求める。民主党の候補者は、強さに疑義があったバイデン氏が撤退してハリス氏になったが、双方の主張の中身はほとんど変わらない。環境問題や人権問題、中絶問題などを訴えるハリス氏か、経済優先を訴えるトランプ氏か。「正義」か「本音」か。今回の選挙では両方が必要だと思われるが、そのバランスが重要になってくるだろう。

トランプ勝利は「インフレ要因」となる?

バイデン政権の直近の課題として、インフレ対策がある。これに対してトランプ氏は自身の経済政策の中で、原油価格引き下げ政策(石油・ガス産業への優遇策)で応じるとしている。

トランプ氏は、関税の引き上げ、利下げ、製造業の競争力強化のためのドル安誘導、所得税減税などの経済政策を掲げているが、これらはいずれもインフレ要因になり得る。以前に書いた〈「ウクライナ戦争は24時間以内に終了」と断言…"帰ってきたトランプ大統領"が掲げる「復讐と報復の政策集」〉でも言及したが、こうしたインフレを抑制するために、トランプ氏は原油価格低下を促進するとしている。

トランプ氏の目論見通りならばインフレが沈静化してドル安になると言うが、原油価格が低下しなければ逆効果となり、インフレは加速し、金利上昇でドル高になってしまうだろう。

筆者作成

一方でハリス氏にとっても、バイデン政権下でコロナ禍以後、お金をばらまきすぎてインフレが加速したことは最大の弱みとなっている。現在までインフレがなかなか鈍化せず、市民の暮らしを圧迫していることは、アキレス腱となり得る。