事業再生に向けた再チャレンジ

高山に戻った有巣氏は、舩坂酒造店の再建に向けて再び取り組み始めた。2011年当時は現在のフラッグシップ商品である「大吟醸 四ツ星」を発売して間もない頃だった。

一般的に日本酒は2000円を境に低価格帯と高価格帯の商品に分類されることが多い。それまでの同社は2000円未満の低価格帯商品しかなく、薄利多売の事業構造となっていた。その状況から脱却するために高級ブランド品を育てたいとの想いから、有巣氏が発売した商品だった。

最高峰の酒米として名高い兵庫県産山田錦を使用し、手間と時間をかけてじっくり醸造している。価格は5000円に設定した。

「酒造りの責任者である杜氏には、とにかくコストは気にせずに自分が考える本当にいい酒を造ってくれと頼みました。だから原料は最高級のものにこだわって造り上げています。商品には絶対の自信があったので必ず売れると思っていました」

写真提供=舩坂酒造店
フラッグシップ商品として人気の高い「大吟醸 四ツ星」

しかし、当時は発売してまだ日が浅く、知名度もなかった。タンク1本を仕込んでも、その年に売れたのは半分以下ほどだったという。

「こんなに良いものができたのになぜ売れないのか」と毎日悩んだ。それまで日本酒の経験がない全くの素人だったので、どうやって売ったらよいかわからなかった。元同期の結婚式の一件以降は、もう一度地道に販促活動を続けてみようと有巣氏は考えるようになる。

「飲んでもらえばお酒の良さに気づいてもらえる」

どんなに商品が良くても、ただ置いておけば勝手に売れるものではないことはなんとなく理解はしていた。だったら、実際に飲んでもらえれば四ツ星の素晴らしさをわかってもらえるのではないか――。

そう考えた有巣氏は、全国各地での試飲会を積極的に増やしていく。さらに、第三者による正式な評価を得るために、鑑評会などのコンテストにも精力的に出品していった。

「まずは実際に飲んでもらうことで、このお酒の良さを多くの人に知ってもらおうと考えました。本当に良いものができたので、飲んでさえもらえれば絶対に分かってもらえると信じていました」

こうした継続的な認知活動が功を奏し、2013年には岐阜県の新酒鑑評会で県知事賞(実質ナンバーワン)を受賞することになる。そこから四ツ星に対する評価は徐々に高まっていった。

次第に口コミとリピートが増えていき、百貨店からも取引の依頼が来るようになる。最初の年はタンク1本造ってもほとんど余っていたのが、翌年にはタンク1本では足りなくなってしまった。その後は販売数量の増加と共にタンクの本数も徐々に増えていった。

ついに赤字を抜け出した

有巣氏はさらなる施策として海外展示会を通じた輸出の拡大や、しぼりたて生酒、日本酒ベースの和リキュール投入による商品ラインナップの強化を図った。

加えて「日本酒のテーマパーク」をコンセプトとして打ち出し、サービスの強化を実行した。いろんな銘柄を少しずつ楽しめる日本酒コインサーバーや酒蔵見学、日本酒と一緒に飛騨牛料理が楽しめるレストランを強化していったのだ。