「オールドボトル」や「シングルカスク」など、かつては好事家の楽しみにすぎなかった希少なウイスキーが、近年投資の対象になっている。ウイスキー評論家の土屋守氏は「10年スパンでの投資リターンは400%に達します。ワインよりも品質を保ちやすく、ブランデーやコニャックよりも希少性が高いのが魅力」という――。
※本稿は、土屋守『ビジネス教養としてのウイスキー なぜ今、高級ウイスキーが2億円で売れるのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
マニアに代わって現れた投資家の存在
「ブラックボウモア」や「マッカラン60年」がオークションをにぎわす以前から、オールドボトルは好事家の間で人気を博していました。1995年ころから2005年ころにかけて、一部のウイスキーマニアの間では、日本中の酒屋をまわって古いボトルを買い漁る「オールドボトル行脚」が流行しました。
何人かの知り合いは、地方都市の駅に着いたらまず公衆電話に飛び込んだそうです。備えつけの職業別電話帳をめくり、掲載されている酒販店の店名と住所を控えるためです。そして、タクシーの運転手さんにメモを見せて、片っ端から酒販店をまわったと言います。インターネット通販も携帯電話も普及していない時代ならではの、ローラー作戦です。
かつてオールドボトルを買い込んだのは、コレクターや一部のマニア、バーや飲食店の関係者でした。彼ら彼女らの多くは、あくまでも個人、あるいは自分の店で飲んで楽しむためにオールドボトルを買っていました。ところが近年になって、ウイスキーは投資の対象となりました。「ブラックボウモア」や「マッカラン60年」の落札者も、飲むためではなく投資目的で競り落としたのでしょう。落札したウイスキーが将来さらなるリターンを生むと考えているのです。