店頭で販売を盛り上げる着ぐるみ作戦
「あらっ便利!」が大ヒットになった理由は、たれの開発と容器の革新がメーンであった。商品軸を根本から変えるような斬新なアイデアと試行錯誤を繰り返した開発担当者の血のにじむような努力により、驚異の成果が実現できたのだ。しかしどんなに優れた商品が出来上がっても、アピールの仕方や実際の販売が当を得たものでなければヒットには結びつかない。ミツカンでは販売面でも的確な対応をとり、大いなる成果に寄与していた。
同社は、この商品を売り出すに当たってテレビCMのほかに、小売店頭用ビデオ、60×30センチの大型宣材ボード、そして納豆をあしらった着ぐるみまで作り、積極的なプロモーション活動を行っている。
これらの活動を展開するうえで重要なのは「タイミングだ」とチルド営業第一課・課長の吉永智征氏は言う。今回のような戦略商品の場合、大規模なコミュニケーション活動が実施されるが、情報に触れた消費者が最寄りの小売店舗に出向いた際に、目的の商品が目立った場所に置いてなければ実際の購入には結びつかない。
そこで、大々的なCMを流した直後に買い物に来る消費者を想定して、スーパーの面取り(陳列スペース確保)をしておかねばならない。今回は商品を発売した5日後に首都圏でテレビCMを流したという。それゆえ、5日以内に消費者の手の取りやすい場所にきちんと商品を配置しておく必要があった。このような状況で、良い面を取るためには、日頃のつきあいがものをいう。この点について、驚くべき話を聞いた。吉永氏によると、「自分のところの商品、これはもうはずしたほうがいいですという提案もさせていただくことはよくあります」というのだ。これは同社が中長期的なスパンで小売店とのつきあいを考えているからであり、小売店の売り上げアップを第一に考えているからだ。このような相手本意の日頃の対応がいざという場面で、タイミングの合った絶好の面取りを可能にしてくれるのだ。
繰り返すように「あらっ便利!」の大ヒットは主に、消費者の日常的に抱くストレスに着目し、これを解消する商品を開発することによってもたらされた。だがそれだけではなかった。営業担当者による流通業者との日頃のつきあいといった地道な努力もヒット商品を陰で支える立役者となっていたのだ。