親の何気ない一言に潜むプレッシャー

Aさんの母親ほどでなくても、子どもに自分の価値観や期待を押しつけてしまう親は珍しくありません。例えば豊かな自己表現ができる、友達が多い、リーダーシップが取れる、勉強、スポーツができる、といったことです。無意識にやってしまっている人も少なくないのではないでしょうか。

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背景には子どもが社会的に成功することへの期待だけでなく、親の自己肯定感の低さや不安定さがあります。また、親自身が達成、解決できていない行動や自身の性格を子どもに押しつけることで、内面の矛盾や不協和を無意識に緩和しようとする「心理的防衛機制」の影響も考えられます。これは親自身が経験した批判や困難、ストレスを「わが子が経験しないように」と願う気持ちがベースにあるケースも多いです。

価値観や期待の押しつけという点では、「お姉ちゃんなのだからしっかりしてね」「あなただけが頼りだわ」といった言葉も、子どもに「こうあるべき」というプレッシャーを与えます。最近は少なくなったと思いますが、「男の子なのだから強くたくましく」「女の子なのだからかわいらしく、家のことができるように」という言葉も同様です。

他人軸で考えてしまう「思考のクセ」

しかし、子どもに「活発で明るい自分でないと愛されない」、つまり「ありのままの自分ではダメだ」と思わせることは自己否定につながり、それが自己肯定感、自己効力感を低下させます。本来、自己肯定感、自己効力感は、家族をはじめ周囲からの支援的な人間関係、肯定的なフィードバック、小さな成功体験の積み重ねに加え、さまざまな評価軸によって育まれるものですが、他者からの評価だけに依存してしまう可能性があります。

Aさんは人の機嫌を損ねないように、相手が望むように、自分のしたいことや自分の気持ちはいつも抑え込んできました。このように他人軸で生きている人は、本当は嫌なのにイエスと言ってしまう傾向があります。

クライアントさんの中には、親の望む自分として過ごしてきた結果、本当の自分がわからなくなってしまった、という人も少なくありません。「どう生きたいか」「何をやりたいか」がわからないどころか、「今日、どの服を着たいか選べない」「自分はどのコップが好きなのかわからない」という人さえいます。

子どもの頃から自分で選び、楽しむことを諦めるようになった結果、「自分はどれが好きか」という自分軸ではなく、「母親(父親)はどれが好きなんだろう」「これを選んだら何て言うだろう」と他人軸で考えてしまう思考の癖がついてしまっていれば仕方ないことだと思います。