黒人住民の隔離や退去のために建設されたわけではないが…

とはいえ、これはこの地域が人種的に統合されたという意味ではない。地理的、そして特に心理的に根強い分断は、この壁の名前の由来になっている1ブロック北の道路によって非常に明確に表現されている。

ちっぽけな8マイル・ウォールが南北にたった0.8キロメートルしかないのに対して、8マイル・ロード(この公道の正式名称はM-102)は、東西に33キロ以上にわたって走る主要道路である。その名は、モーターシティのホイールの中心(ハブ)とも言うべき広場、キャンパス・マルティウス公園の真北8マイル(約13キロメートル)にあることに由来する。

8マイル・ロードは黒人住民を隔離または退去させる明確な意図を持って建設されたわけでも、方向づけされたわけでもない。むしろ測量士は、ミシガン州の手袋(ミトン)のような形をしたロウアー半島にある南部の郡を区分けする際の基線として、それまで未舗装だったこの道路を利用した。

ところが8マイル・ロードは、黒人が支配的な南部の貧しい都市と、白人が大多数を占める北部の豊かな郊外とを分断する道路と考えられるようになった。

米国のレッドライニングとホワイト・フライトの歴史を踏まえれば、このような境界をつくっているのは8マイル・ロードだけではないが、この道路が最も有名な例であるのはほぼ間違いない。

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衰退都市のシンボルとなっているデトロイト

米国の都市衰退のシンボルであるデトロイト(このことは、デトロイトの空き地、廃ビル、凶悪犯罪、消滅しつつある自動車産業と広く関連づけて語られるが、この町の現状を正確に言い表しているわけではない)は、ミシガン州のなかで最も生活費の高いバーミングハムやブルームフィールド・ヒルズといった裕福な郊外と好対照をなしている。

ここにある手入れの行き届いた家や活気のあるストリップモール(訳注:店が1列に隣接したショッピングセンター)は、デトロイトのウェイン郡の至るところにある老朽化した建物とシャッターが下ろされた商店とは大違いだ。

さらに、北部は南部に比べて保守的な有権者の割合がはるかに高く、世帯の平均所得はかなり多く、貧困率は格段に低い。このように、北部の郊外と南部の都市との格差については経験によって実証できるが、差異に関して一般に流布している印象のほうがいっそう説得力がある。