8マイルは単なる道路をはるかに超えた存在

それでも、8マイルの悪評は依然として希望を上まわっている。その悪評を意識して、郊外居住者のなかには、8マイルを避け、わざわざフリーウェイを大まわりしてデトロイトへ通勤している人が多い。

マキシム・サムソン著『世界は「見えない境界線」でできている』(かんき出版)
マキシム・サムソン著『世界は「見えない境界線」でできている』(かんき出版)

ある人は次のように言った。「できるだけあの道は避けるようにしている……ストリップクラブや酒屋が立ち並ぶあの通りはね」。車でここを通過する人も、スピードを上げて数多いホームレスの目の前を走り抜ける。

長いあいだデトロイトが自動車をつくってきたように、自動車がデトロイトをつくった。だがその自動車によって、大都市圏の人々の多くは、この都市とのかかわり方を選り好みできるようになった。

8マイルは現在、好ましい目的地ではなく、社会的流動性と失望との境界、すなわち遠くに行けることと、どこにも行けないことの境界を思い出させて人を不快な気分にさせる存在になっている。

8マイルはまさに、単なる一地方の社会のあり方を超越した概念的な力を備えた境界と言える。それは、ほとんどあらゆる面で二極化した国の象徴であり、“アメリカン・ドリーム”の実現を熱望する人々と、それを馬鹿げた夢物語だと考える人々との分断を示し、私たちの先入観や特権に疑問を投げかけ、現実以上に主張がひとつに統一されているいまの社会において、まったく異なる生活機会があることに気づかせようとする。

それに、都市政策、都市計画、都市論によってどこにでも物理的な分断と精神的な分断が生じ得ることの理由を教えてくれる。つまり8マイルは、単なる道路をはるかに超えた存在なのだ。

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