人が乗って移動できる「電動スーツケース」を大阪市内の歩道で無免許で使用したとして、中国人留学生が道路交通法違反の疑いで書類送検された。中国ITライターの山谷剛史さんは「中国国内で売れなくなった商品が日本向けに販売されるようになってきた。『電動スーツケース』はその典型例で、今後も同じような問題が繰り返し起きるだろう」という――。

初めて摘発された「電動スーツケース」

大阪市内の公道を走る電動スーツケースに乗って走行したとして、中国籍の30代女性が道路交通法違反の疑いで書類送検された。電動スーツケースは最高時速13kmで走ることから、原付バイクに相当するとし、無免許運転で摘発したという。

国で一番人気のブランド「Airwheel」の電動スーツケース(同社HPより)
中国で一番人気のブランド「Airwheel」の電動スーツケース(同社HPより)

走る電動スーツケースは2014年にModobag社(本社米国シカゴ)がクラウドファンディングで披露したのが初めてで、その後中国でAirwheel社をはじめさまざまなメーカーから格安でリリースされるようになった。中国のECサイトで走るスーツケースに相当する「電動行李箱」と検索すると、円安の現在においても、4万円台程度で購入できることがわかる。

ECサイトでは「お出かけに必須グッズ」アピールされている〔中国SNS「微博」(Weibo)より〕
ECサイトでは「お出かけに必須グッズ」とアピールされている〔中国SNS「微博」(Weibo)より〕

100kg以上の荷重に耐えるため大人が乗っても大丈夫で、内部にはスーツケースと呼ぶにふさわしい空間が用意されている。乗って走るだけでなく、付属するリモコンで歩行者を追跡するように走行させることもできる。またUSBコネクタが用意され、内蔵するバッテリーの電力をスマートフォンの充電に使うことも可能だ。

中国だけでなく日本も含む海外でも売られていて、海外旅行で利用する人も徐々に出てきており、日本の空港ではそれにまたがって移動する旅行者を見かけることも珍しくない。

中国でも公道では走ることはできない

この事件は中国でも多くのメディアが報じたが、報道に対する読者のコメントは冷静だ。中国のネット世論については高度な誘導があり、ネット利用者として見た結果は「中国でも走ったらいけないんだから日本でも走ってはいけない」「日本が行きやすい国になって昔と違って変な人も行くようになった」といったコメントが上位に出てきている。

そう、中国でも公道で走ってはいけないし、地下鉄への持ち込みも禁止されているのだ。SNS上では、地下鉄駅のX線による持ち物検査で引っかかる動画が確認できる。

中国国家旅遊局の「文明旅遊出行指南」には、中国人が海外旅行で守るべきモラルとして、「礼儀正しく良い言葉遣いをする」「ゴミをポイ捨てしない」といったものに加え、「交通ルールを守る」とある。

具体的に走る電動スーツケースに乗っていいかは書かれていないが、自国の公道で走行ができないのだから、海外でもダメと考えるのが自然なわけで、今回書類送検された中国人留学生の女性は「旅の恥は掻き捨て」なのか浮ついてしまった可能性がある。

日本で走れず中国でも公道では走れない――。そんなものをなぜ中国人は買おうとするのか。

それは、中国国内には電動スーツケースが活躍する場所が意外と多いからなのだ。