雅さんと大誠さん(写真:雅さん提供)

「彼を私につなぎ留めておくことは本当に正しいんだろうかって何度も考えていました。でも彼の顔を見た時、どうしよう、私から別れを告げるなんてできない……という気持ちが大きくなってしまって」

だが、病院内の喫茶店で大誠さんに告げられたのは、『結婚してください』という予想外の言葉だった。大誠さんは、突如プロポーズに踏み切った理由をこう話す。

「結婚式でよく『病める時も健やかなる時も』って言いますけど、たまたま『病める時』が早く来ただけ。近くにいればいるほど、彼女のしんどい姿を見るのはつらいとは思いますが、彼女がつらい時にそばにいられないほうがつらいので」

自分が死ぬより「怖いこと」

互いの両親は「二人が決めたことなら」と結婚を祝福してくれた。大誠さんは父親から、「(雅さんの病気が分かって)逃げるような奴じゃなくてよかった」と背中を押してもらい、プロポーズの1週間後に籍を入れた。

雅さんは主治医から「5年間生きることを目標に頑張ろう」と言われており、3週間に一度の抗がん剤治療に励んでいる。投与後1週間は、何人もの人が覆いかぶさってくるようなだるさと吐き気で、ベッドとトイレを行き来するのがやっと、という激しい副作用に見舞われる。

そんな苦しい治療を続ける裏側には、“恐怖”があるという。

「自分が死ぬことが怖いというより、彼を一人置いていけないという気持ちが強くて。家族になったということは、最後まで添い遂げる責任が伴うと思っているので、いつか訪れるお別れは、なるべく遠くの未来であってほしいと願っています」

そんな雅さんの不安を、大誠さんは優しく受け止める。

「妻は寂しがり屋なので、もし僕が先に死んだら大変だと思うんです。妻にそんな悲しみを味わわせるよりは、僕が引き受けるほうがいいかなと」