こうしたスプレーを受けた対象者は、激しい痛みを感じ、多くは行動不能に陥る。身体に物理的なダメージを生じることは少ないが、刺激に対して敏感な特定の神経細胞に作用し、灼熱のような激しい痛みを生じる特性がある。フォックスニュースによると、実際に人体に対して使用した試験では、対象者が数時間にわたって視力を失い、呼吸困難に陥ることが確認されたという。

ブートジョロキアに限らず、一般的に、カプサイシンを利用した武器が研究されている。ワイヤード誌によると、トウガラシを用いた防衛用品を製造する米ペッパーボール社は、ペイントボールの発射機に似た武器を販売している。着弾と同時に、トウガラシ成分が炸裂するという。また、リアルアクション・ペイントボール社も、専用のピストル型発射装置を開発している。

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きっかけは「野生の象」だった

兵器や護身用に用いられていることからも分かるように、ブートジョロキアは極めて攻撃性が高い。研究者自身が辛さに驚いたことで、その刺激の強さに注目するきっかけになったという。

インド防衛研究開発機構(DRDO)のスリヴァスタヴァ氏は、タイムズ・オブ・インディア紙の取材に対し、「一度だけ、ある人の家で地元の料理を味わったことがあるのですが……」と語る。「その時のスパイスは忘れられません。身体が火傷しそうなほどでした」

時が経ってスリヴァスタヴァ氏は、世界自然保護基金(WWF)から、地元民を悩ませる野生の象の撃退法を検討してほしいと依頼を受ける。このとき彼は、象を傷つけずに追い払う手法として、ブートジョロキアの利用を思いついた。「フェンスにこのトウガラシを塗って象を追い払う方法を試みたところ、効果がありました」

また、この経験をもとに、兵器としての応用が検討された。「その辛さと涙を誘う効果を利用して、(のちに)トウガラシ爆弾を着想したのです」とスリヴァスタヴァ氏は語る。

副作用は数時間ほどで消え、従来の化学兵器よりも後遺症が残りにくいという。インドのウィーク誌は、人質に深刻な害を与えずに犯人を無力化するシーンなどで有効だと指摘している。

一方、OCスプレーの弱みとして、スタンガンのように筋収縮を起こす作用はない。あくまで痛み刺激による無力化であるため、強靱な精神力で痛みに耐えようとすれば、それも不可能ではない。ワイヤード誌は、アメリカ海兵隊の新兵訓練においては、OCスプレーを噴射されたあとも闘うタフさが試されると紹介している。