最も深刻なのは出版人材のレベルの低さ
本稿や拙著『2020年街から書店が消える日』の主張に対して多くの異論がある事は承知していますが、出版界で一番不足しているのは誰にも忖度しない自由な議論です。
無論私の提言が一顧だにする価値もなければ無視してください。もし、興味を持たれるか議論をお望みならばお声がけください。私は事情が許す限りどこにでも出かけ、どなたとも議論をしますし、講演もします。一般読者も巻き込んだ街の書店の生き残りのための自由な議論を始めませんか?
中でも深刻なのは、出版界の教育(研修)の不在です。これは異常といっても差し支えありません。メディアの劣化が指摘されて久しいですが、教育は出版界のみならずメディア業界全体の課題です。
本稿をお読みのメディア業界の皆さん。あなたの大学の同級生で金融界、メーカー、商社をはじめ地方の中堅企業に入社された方に社内研修について聞いてみませんか? あなたが世の中の変化から取り残されている事がわかって愕然とすることでしょう。
大学を出た時には同じような能力だったはずですが、他業界に行って継続的な研修を受けた同級生は、遠い所に行ってしまっています。出版界のみならずメディア業界にイノベーションが起きない根本的な原因は「教育の不在」にあります。(詳細はp154)
「ネット書店があれば大丈夫」のウソ
最後にネット書店についてお伝えします。書店がなくなってもネット書店があるから、日本の出版物は大丈夫だと思われている読者の皆さんもいらっしゃるかもしれません。
出版社にとってネット書店の販売占有は30%程度でしょうか? ビジネス書の比率はもっと高いでしょうが、文芸書の販売占有は低く児童書では8%でしょうか。ネット書店ではリアル書店の需要のすべてを代替できませんから、書店がなくなれば多くの出版社は倒産し、日本の出版活動は著しく縮小することになるでしょう。
そして、リアル書店でしか味わえない本との偶然の出会いであるセレンディピティな空間を日本人は失ってしまうことになります。
あなたは、そんな日本社会を望んでいませんよね?