夫婦間で「私語厳禁」のルールを課す理由

一成さんは夫婦で切り盛りしているラーメン店に憧れていた。「Miya De La Soul」や「燦燦斗」「こうかいぼう」など大好きなお店は夫婦経営のお店ばかりだった。

「従業員やアルバイトとお店をやっている絵が私には描けなかったんです。奥さんと片田舎で2人で切り盛りしているイメージしか描けませんでした。なので『一緒にやってくれないか?』とお願いしました」(一成さん)

2020年からは隣の物件も借りることができ、お店のサイズが倍になった。

子連れ客やお年寄りも入りやすいように、待合室とテーブル席を作った。

こういう時も最終決定権は千尋さんだ。いつだって冷静な判断と広い視野で決断してくれるのだという。

「お客さんから『夫婦で頑張ってるよね』と言われている雰囲気が好きなんです。これからもさらに地元の方々に愛されるお店になれたらと思っています」(一成さん)

毎日営業が終わった後に言い合いをすることはあるが、その日でリセットし、次の日に持ち越さないのが2人のルール。2人の間がギスギスしているのがお客さんにもわかってしまうからだ。

営業中は2人の間では基本的に私語厳禁。コミュニケーションはとるが私語はしない。初めて来たお客さんがまた来たくなるようにお店の雰囲気作りに気を配っている。

筆者撮影
営業時間中は「私語厳禁」のルールを定める鈴木夫妻。店主と常連の「内輪の空気」を出さず、一見客にも居心地よく感じてほしいという思いがある

常連客だからと特別扱いはしない

たとえ味が良かったとしても接客が疎かになっていくと店は長続きしない。一成さんが大事にしているのは「お客さんに優劣をつけないこと」だ。接客の悪さとは無愛想な態度をとるということだけではなく、常連とばかりぺちゃくちゃ喋ったり、内輪的な空気を醸し出したりすることも含まれる。

2人は開店当初から現在に至るまで、一人ひとりに対し丁寧に接客することを心がけているが、開業して間もない頃はお酒を持ち込んで飲み始めるお客や、店前でタバコを平気で吸うお客もいたという。そういうお客に対してはハッキリとやめてほしいと伝えた。店がある程度の規律を保つとお店の雰囲気がよくなっていくのだという。

人と話すことが大好きな一成さんだが、常連客との会話は挨拶程度にとどめ、ありがとうの気持ちを一杯のラーメンに込めて提供している。

筆者撮影
夏季限定の「冷たい煮干しぶっかけ」。通常メニューは醤油と塩だが、原材料にこだわった煮干しスープにもファンが多い