愛という名の支配

さらに、この映画は第3の問いかけをする。それは、大人と子どもの間に本当の恋愛関係は存在するか――というものだ。

チャールズ・メルトンが演じるジョーは大きな身体をした大人だが、仕事をしているとき以外はビールを飲み、蝶のサナギを眺めているだけの幼い男性だ。体は成熟しているが、中身は子どもでいつもグレイシーの言いなり。

グレイシーは普段は無垢なお姫様のように振る舞うのに、娘や夫が自分の意見をもとうとすると、彼らの自己肯定感を下げるような言葉を吐き、精神的に支配する。一方、エリザベスも成年特有のしたたかさを発揮してジョーを利用する。

ジョーの精神的未熟性と2人の女性の計算高さを対照的に見せることによって、愛という名のベールに包まれた「支配欲」をこの映画は表現していると思う。

画像提供=HAPPINET CORPORATION
映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』場面写真

性加害者を「美人シングルマザー」と呼んだ日本のマスコミ

女性教師と男子生徒の実際の事件は、この『メイ・ディセンバー』以外にも映画化されている。ジュディ・ディンチとケイト・ブランシェットのダブル主演による『あるスキャンダルの覚え書き』(2006)だ。

この映画にも、実在の事件の報道と同様にアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が存在する。メアリーを模したケイト・ブランシェット演じる女性教師は、不幸な結婚生活を送っている悲劇の女性として描かれている反面、教師と関係をもった15歳の少年は“被害を受けた子ども”として描写されていない。

実は、似たような事件が日本でも起こっていた。

2019年、香川県在住の23歳の女性が小学6年生の男子に対する強制性交と児童ポルノ法違反容疑で逮捕された。しかし、2人の間に「将来は結婚しよう」「愛してる」などのやりとりが残されていたことから、「悪質性が低い」と判断されて女性には懲役3年に執行猶予5年がついた。この女性は他にも複数の未成年と性的関係をもっていたと疑われていたが、マスコミはこの女性を「美人シングルマザー」と呼んだ。

しかし、もしこの女性が男性だったら、どうか――。

メディアは「イケメンシングルファーザー」と呼び、司法も2人が交わした愛の言葉を「悪質性が低い」と判断することはないだろう。むしろ、成年男性が少女を洗脳するチャイルド・グルーミングだと認定するにちがいない。

「男性はレイプされない」
「年上女性とのセックスは男の子の通過儀礼だ」

そんなジェンダー・バイアスをなくさない限り、男子の性被害の矮小化は続く。同時に、当事者に対する報道のあり方について、私たちはもっと議論していかなければならない。

冒頭で触れたフィギュアの安藤さんが16歳の男性選手と「デートした」と報じられた後、例によって他媒体による後追い記事は今も続、興味本位の構成に終始している。結局、アメリカも日本もメディアの本質はいつの時代も下衆ということなのだろうか。

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