朝日新聞などの報道によると、NTTの澤田純社長が、4月1日に行われた入社式のあいさつで、「(男性と女性では)能力や特性の得意な分野が違う」と発言。これに対し、臨床心理士で公認心理師の村中直人さんは「科学的根拠を持ったジェンダー観に認識をアップデートして」とツイートした。澤田社長の発言はどこに問題があったのか、村中さんに聞いた――。

方向性は間違っていないが、認識が古い

NTTの澤田社長のあいさつを拝見すると、積極的に女性を登用しようという姿勢をお持ちのようですし、ダイバーシティへの意識も高いのではないかという印象を受けます。男女で協力し、生産性を高めながら働きましょうというメッセージを込められていたと思います。その方向性は素晴らしいと思いましたが、残念なのは発信の根拠となる部分です。

真意はわかりませんが、報道されている限りでは、「男女の能力や特性は明確に違う」「人間の能力や特性の違いは、男女というカテゴリーによって傾向が大きく異なる」ということを前提に発言されています。つまり、男性か女性かがわかれば、おおよその得意と苦手がわかるはず。そして、男女それぞれで異なる得手不得手を、相互に尊重し合い、補い合って働くことがダイバーシティの推進であると考えていらっしゃるように受け取れます。

多様性を尊重するという意味の方向性には私も賛同するところですが、認識が古く、近年の研究知見をアップデートされておられないように見受けられます。

「男性脳」「女性脳」は存在しない

近年、「脳の機能が、男女によって違う」という考えは誤りであることが、科学的にわかってきています。

もちろん男女で脳の平均を取ると、差が存在しないというわけではありません。ただ、昔言われていたほどに違うわけではないことがわかっています。脳の機能は、個人によってものすごくバラバラで、「平均的な女性の脳」や「平均的な男性の脳」を持つ人は、ほとんど存在しないそうです。

このあたりは、イスラエルの神経科学者、ダフナ・ジョエルさんの『ジェンダーと脳 性別を超える脳の多様性』(紀伊國屋書店)に詳しいのでぜひご一読いただきたいのですが、この本によると、典型的な男性脳、典型的な女性脳を持っている人はたった2%しかいなかったというデータがあるそうです(経営者や人事の方々にはぜひ、この本を読んでほしいと思います。これ1冊だけでも、ジェンダー観が格段にアップデートできると思います)。

発達障害にカテゴライズされる人の割合は、人口の6~7%程度だと言われていますから、典型的な男性脳、典型的な女性脳を持っている人の割合の低さがわかると思います。ほとんどの人が、女性的な特徴と男性的な特徴の両方を持っていて、その組み合わせは一人ひとり異なっており、複雑なモザイクを作っているそうです。平均的な男性よりも男性的な脳を持っている女性もたくさんいますし、平均的な女性よりも女性的な脳を持っている男性も、当たり前に存在するのです。

こうした科学的リテラシーがあれば、「女性には女性のよさ、男性には男性のよさがある」など、人の特性を単純に男性と女性で分けるような発言は、出てこないように思うのです。

人工知能のコンセプトイメージ
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