強みは「正確な移動データ」を取得できること

テック企業としてのウーバーの優位性は、ライドシェアやフードデリバリーを通じて多様なデータを取得している点にある。なかでも位置情報を持っていることは、大きな強みだろう。近年、セキュリティ意識の高まりからアプリの位置情報をブロックするユーザーが増えているなかで、ウーバーは正確な移動データを取得できる数少ない会社のひとつだからだ。

買い物代行のPPPでも、配達員が店舗で素早く商品をピックアップできるよう、その商品が店舗のどこに陳列されているかの情報を取得し、店内地図を表示する機能を提供するという。

写真提供=共同通信社
「まいばすけっと」で行われた、ウーバーイーツの配達員が注文された商品を選び、会計、配達までを担うサービスのデモンストレーション=2024年6月26日午後、東京都内

ウーバーは詳細な情報を公開していないため、アメリカでPPPの競合にあたるインスタカート社を参照すると、買い物代行で蓄積した「商品人気度」や「商品間の相関性」などのデータを収集しているほか、マーケティングデータとして小売企業に提供し、マネタイズしていることが確認できる。インスタカート社では、こうしたデータを活用した広告事業が売上の3割を占めるまでに成長しており、ウーバーでも同様に広告事業の比率が高まっているとみられる。

データを基にした「広告事業」の驚きの成果

「Uber Advertising」と呼ばれるウーバーの広告事業は、ライドシェア乗車中の車内や「ウーバーアプリ」「ウーバーイーツアプリ」での広告配信が中心だ。日本のタクシーの車内で流れるマス向けの広告とは違って、ユーザーの注文履歴やアプリでの行動データに応じてパーソナライズされた広告を届けられる点が大きな特徴だ。

アメリカでは、2022年、テニスの全米オープン期間中、試合会場などニューヨーク市内の目的地に向かうウーバーの乗客を対象にアパレルブランドの「ラコステ」がキャンペーンを展開した。高級品やファッションに敏感なテニスファンをターゲットにすることで、「ブランド認知度」を30%、「広告の記憶度」を25%向上させたほか、平均広告露出時間は101.9秒とベンチマークを大幅に上回る結果となった。まさに移動データをはじめ多くの顧客情報を持つウーバーならではの事例だといえる。

今回、日本で始まったPPPの買い物代行は、ウーバーが「ビッグデータ×AI」のビジネスを日本で加速させていくための足掛かりのひとつだと捉えることができるのではないだろうか。ソフトバンクグループもAIを基軸としたオンラインコンビニの「Gopuff」に投資しており、「AI×デリバリー」のビジネス領域における競争は激化していきそうだ。

また、近い将来に「ライドシェア全面解禁」が実現すれば、日本においてもウーバーの存在感はますます大きなものになるのではないだろうか。「ビッグデータ×AIカンパニー」として進化を続けるウーバーが日本のビジネスにどのような影響を及ぼすのか、今後も注視していきたい。

(構成=瀬戸友子)
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