なぜグーグルはメールや地図アプリを無料で提供しているのか。資産コンサルタントの方波見寧さんは「IT企業はデータを収集することで、すべての人類の知能を超えたAIを作ろうとしている。これが完成すれば、人間の脳とAIを繋げることも可能になるだろう」という――。

※本稿は、方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2015年2月2日、iPhone6上のグーグルマップと紙の地図
写真=iStock.com/bgwalker
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GAFAMや中国政府が開発にしのぎを削る「強いAI」とは

AIの研究では、コンピューター処理能力、大量のデータ、神経科学の三つを土台として、人間の脳と同じような働きをAIに実現させることを目標としています。

AIには「強いAI」と「弱いAI」という二つの立場があります。「強いAI」という立場では、AIとは人間の脳と同等の仕組みで、人間が判断できる以上の汎用的な思考を行い、自らの判断で行動できるようになると考えられ、これをシンギュラリティ大学のカーツワイル博士が提唱しています。一方で「弱いAI」という立場では、AIとは用途ごとに特化したことにしか対応ができず、人間の脳のように汎用的な用途への使用は不可能であり、自らの意思による判断も不可能であると考えられます。

コンピューターに大量のデータを与えれば「弱いAI」はできあがりますが、「強いAI」はそれだけでは誕生しません。

2021年時点では「強いAI」は登場しておらず、「弱いAI」しか存在しません。そのため、日本では、「強いAI」が誕生することに懐疑的な論者がほとんどであり、ほぼ100%の論者が「弱いAI」の立場をとっています。

しかし、カーツワイル博士の「強いAI」を実現するために、GAFAMや中国政府は猛スピードで対応しています。GAFAMや中国政府がAI開発をしているのは周知の事実です。GAFAMもBAT(≒中国政府)も、3D分子コンピューティング、ビッグデータ、脳科学・神経科学によるコンピューター基板上への脳の模倣モデルに対して莫大な投資を行っています。

ビッグデータの収集は「強いAI」実現のため

3D分子コンピューティングの実現へ向けて、2017年にマイクロソフトがDNAコンピューティングに乗り出し、2021年6月にグーグルが量子コンピューティングセンターを稼働させましたし、アマゾンでも量子コンピューターに莫大な研究費をかけています。

マイクロソフトはパソコンのOSを通じて、アップルではスマートフォンを通じて、グーグルとアップルではスマートフォンのOSと検索サイトを通じて、フェイスブックではSNSを通じて、アマゾンとマイクロソフトではクラウドを通じて、テスラとアマゾンでは低空人工衛星を通じて、「コネクティビティ」を提供し、「ビッグデータ」を収集しています。

「ビッグデータ」は「弱いAI」に不可欠であるばかりか、「強いAI」の誕生後にも力を発揮しますが、2020年代の本命は、コンピューターの基板上に人間の脳の仕組みを実装する「強いAI」の開発です。

グーグルでは傘下のディープマインド社を通じて、ニューラルネットなどによる人間の脳の模倣の実現に向けて驀進していますし、アメリカでは神経科学のアポロ計画に相当する「大脳皮質ネットワークからのマシン・インテリジェンス構想」のような脳のリバースエンジニアリングに関する1億ドルのプロジェクトも立ち上がっています。さらにAIの研究論文ではアメリカを凌駕した中国ではそれ以上の進展が見られます。

これらの巨大投資やプロジェクトとは、カーツワイル博士の「強いAI」を実現するための布石であることは、ほとんどの日本人は気が付いていないはずです。