タレント不在でも優勝した2014年

さらに、采配面を見ても試合運びの上手さも西谷監督の強みの一つ。具体的には、2014年のチームが非常にわかりやすい。この年の大阪桐蔭は、その他の優勝した年とは違い「圧倒的な強さ」はなく、新チーム発足直後の2013年秋季大阪大会ではライバルの履正社を相手に13対1のコールド負けの屈辱を喫している。ただ、秋季大会終了後に選手を成長させ、勝ち方のバリエーションを増やしていくことで「試合巧者」としてチームが洗練されていった。その結果が出たのが、夏の甲子園の準々決勝、準決勝、決勝である。

ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)

準々決勝では「機動破壊」でお馴染みの健大高崎相手に、相手の機動力を徹底的に無視した。この試合で4盗塁を許す代わりに、投手は打者との対戦に集中したのである。完投した福島孝輔は、「足は無視。アウトを取ることに専念した※6」とコメント。それによって、無駄なクイックが減り、球威や球速が落ちることなく、健大高崎を2点に抑えた。

準決勝は、敦賀気比つるがけひと壮絶な打ち合いになった。先発の福島は1回表に5点を失ったが、その裏、打撃陣が敦賀気比の2年生エース・平沼翔太(現・埼玉西武ライオンズ)から得点を積み重ねて2回に追いつく。その後、3回表には突き放されるも、4回裏には逆転に成功。結果的に15-9で大阪桐蔭は勝利した。5戦で合計77安打を記録していた敦賀気比に対して、前戦とは一転、打撃戦で真正面からぶつかった結果、勝利して決勝に進んだ。

決勝の三重高校との試合は、全体を通して三重のペースで進んでいた。2回に2点を先制された大阪桐蔭は、3回に追いつくが、5回に勝ち越される。ターニングポイントは7回だ。三重は一死三塁のチャンスでスクイズを失敗し、追加点が取れずに終わる。その裏の大阪桐蔭は、2つの四死球とヒットで二死満塁のチャンスをつくり、主将の中村誠がしぶとくセンター前に勝ち越しタイムリーを放ち逆転に成功。9回表も福島が一死一、二塁のピンチを背負ったが、後続を抑えて夏を制した。

「今年は圧倒する力はないですけれど、子どもたちは夏に日本一になるためにどこの学校よりも練習してきたつもり※7」と西谷氏がコメントしたように、「粘りに粘る野球」が、最高のかたちで完結した。この年の夏の戦い方は、選手の成長はもちろん、西谷氏の監督としてのマネジメント力、育成力の集大成だったともいえる。

※1 監督別の甲子園の優勝回数・通算勝利数ともに歴代1位
※2 「【対談 #1】西岡剛×森友哉 『野球を始めたきっかけとは!? 大阪桐蔭時代を振り返る』」西岡剛 チャンネル【 Nishioka Tsuyoshi Channel】2023年2月17日
※3 「【大阪桐蔭】『平成最強校』を率いる西谷監督のオフ練習、オフトレ論(後編)」Timely! WEB、2018年1月17日 
※4 「一度チームワークを捨て、その後に。大阪桐蔭を支える個と団結力の哲学。」Number Web、2018年8月21日
※5 同前
※6「週刊ベースボール増刊 第96回全国高校野球選手権大会総決算号」ベースボール・マガジン社、2014年、P129
※7 同前、P5

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