「控えになるのが嫌なら、グラウンドに来んといてくれ」

ビジネスの現場において優秀なマネージャーであっても、個とチームの力をバランスよく伸ばせる人は少数派であるように、非常に難易度の高いマネジメントをしている西谷氏だが、個を高める時期はチームワークを捨てる意識を選手に持たせている。

「他のやつが何をやっていても放っておけ、個を高めている時期はチームワークが悪くなっていいくらいに思っている※4」と西谷氏は言う。

そして、個を高める時期が終わったら「これまでは個人練習をメインにやって来たけど、きょうからはチームとしてやる。だから、結果としてメンバー(から)外れてしまったらやる気をなくすとか、自分が控えに回って納得がいかないと思う選手がいるなら、きょうからグラウンドに入らんといてくれ。皆の目標が日本一という中、どうチームとして絡みあっていくかが大事になる。だから、先発したいと思っても自分がそうなるとは限らない。今の時点で控えになるのが嫌なら、グラウンドに来んといてくれ※5」と厳しい言葉をメンバーに伝える。

大阪桐蔭中学校・高等学校
大阪桐蔭中学校・高等学校(画像=桂鷺淵/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

チームづくりの大前提として、最大限に個を高める時期が終わってから、その後に個と組織を融合させるのだ。このチームビルディングができるからこそ、毎年のようにトップクラスの「強いチーム」をつくり上げている。

豊富な勝ちパターンで常勝が可能になる

大阪桐蔭は、派手さがある年とない年がある中で、チームとしての「勝ちパターン」も豊富だ。様々なチームカラーで優勝しているからこそ、これまで複数回の優勝を達成できている。その豊富な勝ちパターンを支える要因は、一貫した戦略や選手の運用力だ。

優勝した年には高確率で「掘り出し物」の選手や「ラッキーボーイ」の存在がいる。チーム内で比較的目立つ主役と脇役のバランス感覚が絶妙で、他の監督には届かない領域に達している。さらに、「大阪桐蔭」といったネームバリュー、ブランド力もあると、初戦の序盤や試合終盤に相手にプレッシャーがかかり萎縮し、ミスを誘えることもある。