一生涯もらえる年金制度は、さまざまな場面で安心感を生む。数年前のコロナ禍では、業種や職種によっては現役世代の収入が下がったり、失業して収入が途絶えたりというケースも見られたが、年金受給者の受け取る年金が減らされることはなく、安心して暮らせたことが記憶に新しい。
「今後ますます年金受給者が増え、少子高齢化で現役世代の人数が減っていけば、やはり年金財源は苦しくなります。ただ、そうした課題にはさまざまな対策も打たれているので、年金に対し無関心になることなく、むしろ活用するつもりでいるといいでしょう」
75歳で年金受給すれば額は1.84倍になる
老後の収入の柱である年金は、前述した通り受給開始時期を遅らせることで受給額を上げることができる。しかし、そのアップ幅の大きさはあまり知られていない。
「年金の受け取りは通常65歳からですが、遅らせたぶんの繰り下げ月数×0.7(%)という計算で増額されます。具体的には、70歳から受け取れば1.42倍、75歳から受け取れば1.84倍にもなるのです。逆に、受給開始を早めると減額となり、60歳から受け取った場合は24%の減額になります」
ここで、「年金受け取りを後ろ倒ししても、その前に死んでしまったらもったいないじゃないか」と思う人もいるだろう。そんなに長生きできるとは限らないのだから少ない額でも早く受け取りたい、と考えるのは理解できる。
「でも、ここで第一に考えてほしいのは『長生きしたときのリスク』。一番怖いのは、長生きをした場合に老後資金が尽きてしまうことです。その事態を避けるためには、年金の受け取りを遅らせて安心感を得たほうがいいのではないでしょうか」
では、実際にどのように準備していったらよいのだろうか。まずは年金や健康保険といった国の制度をしっかり確認し、最大限活用することだ。
「高齢社会を迎える日本では、国の制度はある程度整っています。さらに会社の企業年金制度がある人は、どれくらい受け取ることができそうかを確認しておきましょう」
必ず確認しておきたいのが、公的年金の具体的な受給額だ。毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」だが、ちらっと見るだけで放置していないだろうか。いま手元にない場合は「ねんきんネット」にアクセスすること(マイナンバーカードで登録可能)でも確認できる。受け取る時期をずらすことで、どれくらい増減するかも確認しておきたい。
「ねんきんネットの使い方がわからなければ、お住まいの管轄の年金事務所に予約をして、直接相談しにいくのもおすすめです。無料で年金の相談に乗ってもらえますよ」
将来受け取る年金額がわかったら、次は月々がどのようなキャッシュフローになりそうかを計算してみよう。受け取る年金や仕事の収入に対して支出が多い場合、毎月の赤字額を計算することで今から準備すべき老後資金が見えてくるはずだ。
「定年後にいきなり生活費のダウンサイジングをするのは難しいので、現役時代から意識するようにしてください。収入を増やし、支出を減らす意識を持てば、それだけ取り崩すべき貯蓄が少なくて済みます」
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。