老後のお金の不安を解消するにはどうすればいいか。産業医の吉田健一さんは「60~70歳の間、週3~5日で働き続けることができれば生涯賃金を大きくアップさせることができる。そのためにはヘルスリテラシーを高め、60歳になっても働き盛りのころと変わらない健康状態を維持することが大切だ」という――。
コインを積み上げている手元
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健康であれば70歳まで元気に働ける

4月から新入社員が入社し、フレッシュな気持ちになった方は多いのではないでしょうか。私は今年51歳になりましたが、私が学生の頃は「新卒入社した入社に、定年になる60歳まで勤める」という考えがわりと一般的でした。

しかし、日本人の平均寿命はこの50年で12歳ほど伸びています。厚生労働省の調査によると、2019(令和元)年におけるわが国の平均寿命は、男性81.41歳、女性87.45歳でした。いっぽうで健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳です。

【図表】健康寿命の推移
出典=健康寿命の推移(厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」より)

一般的な企業に勤めている場合、60歳以降も再雇用などの形で会社員を継続し、年金受給が開始される65歳まで働くことが多いと思いますが、心身状態が元気であれば、70歳までみんな働くことができるのです。

60歳定年制が残るのは日本と韓国だけ

そもそも、定年制が継続するとは限らない社会の流れもあります。経済協力開発機構(OECD)は2024年1月11日に、2年に1度の対日経済審査の報告書を公表しました。人口が減る日本で働き手を確保するための改革案として、定年の廃止や、高齢者や女性の雇用を促すよう訴えています。このニュースは日経新聞でも取り上げられたので、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

日経でも報じられているとおり、OECDに加盟する38カ国のうち、実は日本と韓国だけが60歳での定年を企業に容認していますが、米国や欧州の一部では、そもそも定年退職は年齢差別として禁止されています。

私は産業医・精神科医として臨床現場にあたるなかで、その人の働く意思や能力、それに体力などのフィジカル面を考慮せず、「年齢」という要素だけで、肩書も収入も途絶えてしまう定年制については、大いに疑問を感じています。「定年制廃止」の逆を言えば、「元気であれば何歳でも働いて稼ぐことができる」ということです。体が元気なうちは70歳まで働く。60代以降も社会とのつながりを保ち続けるためには、「健康であること」が第一です。

本稿では、産業医の立場から、健康に働き続けるために大切な「ヘルスリテラシー」と「マネーリテラシー」についてお伝えします。