国内に900万戸あるといわれる空き家。社会問題化している放置された空き家を民泊物件として再生している前出の羽田氏によれば、地方で行う民泊には都心にはない多大なメリットがあるという。

地方なら365日営業可能自分の別荘にもできる

別荘地のような地方で行う民泊はインバウンドへの依存が低い点が特徴です。そのためコロナ禍でも売り上げが落ちることなく、海外旅行に行けないニーズの代替として稼働はとても好調でした。そしてコロナ後も日本人旅行客は減っていません。円安になったことで、海外旅行ではなく国内旅行を選ぶ人が増えたのが一因です。さらにプラスしてインバウンド客も別荘民泊を利用している状況で、宿泊客の外国人比率はだいたい35%程度となっています。おかげで売り上げ記録の更新が継続している状況です。

別荘民泊ではバーベキュー設備やウッドデッキ、ジップラインを設置する、あるいは周辺環境など、差別化できる要因がたくさんあるのが強みです。これが都市部でマンションの一室を借りた場合、内装以外で物件の差別化が難しくなるのです。

別荘民泊の物件探しでは、インバウンドを意識するなら富士山コンテンツが圧倒的に強いので、山梨県で物件を持つのが狙い目です。しかし、すでに河口湖周辺は過熱しているため、河口湖に近い富士吉田市より東京寄りに位置する山梨県の都留市や大月市が狙い目となります。同様にインバウンド需要の高い箱根であればその手前の小田原近辺で物件を探すとよいでしょう。単に宿泊だけして何も観光せずに帰るような人はいないので、観光客の動線を意識し、泊まってどこに観光に行くのかを想像することが必要で、民泊物件とターゲットとなる観光地との距離は車で40分以内が理想です。あるいは、自宅から車で2時間くらいの範囲の観光地で民泊を始めれば、予約が入っていないときは自分で別荘として利用できます。

図版作成=大橋昭一

地方で民泊を始めるメリット

地方で民泊を始める場合、1000万円前後の中古の戸建て物件を購入するケースが多いですが、転貸でも可能です。家賃が安いのも地方の利点だからです。前述の都留市では3LDKの物件を家賃5万円台で借りられます。これだけ家賃が安いと2〜3組予約が入るだけでペイできるので、経営のプレッシャーも軽減されると思います。また地方には不動産の用途を制限する「用途地域」が存在しない地域も多く、簡易宿所の許可が取りやすいというメリットもあります。つまり、年間180日間という営業の制限がなくなり、いわば無条件で特区民泊に指定されているような状況なのです。

地方で民泊を始めるにあたり、駐車場は必須となります。たとえば10人が泊まれる物件には、車3台に分乗してやってくるわけですから、理想は3台、最低でも2台分の駐車スペースが必要です。とはいえ、そこは地方なので隣地が空き地のまま放置されていることも珍しくなく、土地所有者と交渉して駐車場として借りることは難しくありません。

別荘地での民泊では管理組合の存在がハードルとなるケースがありますが、最近は民泊可能とする管理組合も増えています。管理費が不足して別荘地の維持が困難という事情があり、今後も民泊解禁に踏み切る別荘地は増えると思われます。

地方には、寂れた旅館や民宿など古い業態で苦戦している観光地があります。そこにおしゃれにリノベされた別荘があれば、ネットで見つけた若者が泊まりに来る可能性も高い。地方の不動産オーナーは地元の魅力に気づいておらず、民泊をやる発想もないため、一人勝ちも可能です。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。

(文=栗林 篤)
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