東京を中心に750件の民泊の清掃を受託している民泊清掃R社長は、自社の受託状況から民泊が成り立つエリアが日々拡大していると感じているという。

狙い目は成田空港に近い23区東部の地味なエリア

民泊新法が施行される以前、東京の民泊といえば、新宿や渋谷といったビッグターミナルの徒歩圏で物件を確保して運営するのがセオリーでした。当時は池袋でさえ「客付けが弱い街」と評価されていました。そこからパンデミックを経て、現在の東京の民泊市況は様変わりしています。

従来なら「到底、利益が出ない」と見限られていた場所、たとえば葛飾区の柴又や金町でも民泊物件が続々オープンしています。スカイツリーがある墨田区、浅草を擁する台東区の民泊も言うに及ばずの活況で、総じて都内東部で民泊が盛り上がっていると感じます。こうした変化は日本を旅慣れたリピーターやSNSの口コミにより、インバウンド客の東京に対する解像度が上がり「ターミナル駅に直接出られれば小さい駅でも十分便利」と周知されたからと推測します。

ほかにも京成押上線の四ツ木駅や青砥駅といった、羽田・成田どちらにも電車一本でアクセスできる場所でも清掃の受託が増えていてニーズが高まっています。さらには江戸川区の平井で民泊を始めるオーナーや、浦安、松戸、市川などあえて県をまたぐことで、家賃や初期費用をぐっと抑えて始める人も出てきています。「浦安や松戸で民泊が成り立つのか」と懐疑的な意見もあるかもしれませんが、東京の不動産マーケットが過熱し、物件を確保するのが容易ではない現在です。比較的家賃の安い千葉県でスタートするのも、数年後には当たり前の手法になっているかもしれません。

図版作成=大橋昭一

宿泊客の物件へのニーズにも変化が生まれており、従来は2段ベッドを使ってでも収容人数を増やすオーナーもいましたが、むしろ最近はベッドの数を減らして空間にゆとりを持たせ、8〜10人を収容できる広い物件が好まれています。詰め込み型からゆったりとしたスペースのある施設へトレンドが変化しているのは、円安で旅行者の財布に余裕が生まれている影響かもしれません。

70%の満足度でも先行して始めることが大事

特区民泊に指定されている大田区では民泊新法に比べて収益が上がりやすいので、民泊用の新築物件を建てる投資家もいます。特区民泊では運用期間中のキャッシュフローが厚いことに加えて、出口で高値売却も期待できます。現在、民泊のM&Aが活況です。大田区で月の家賃が30万円、年間の売り上げが1200万円の物件の「権利譲渡」が3000万円で売りに出ていました。あくまで売り主の希望価格にすぎませんが、仮にこの物件を自主管理すれば月の手残りが45万円くらいにはなるので、1物件で生活が成り立ちそうです。収益還元で値付けをしていると思われるので特区民泊ならではの出口といえます。

民泊というビジネスへの見方にも変化が生まれています。民泊物件の建築に対して投資用ローンを融資する金融機関が登場しています。以前であれば考えられないことですが、民泊が賃貸経営のように事業として評価され始めていると感じます。

インバウンドは国策なので、5年後に今の東京の民泊を振り返ると「あのときやっておけばよかった」となる可能性が高いです。今までは微妙だと思われていた足立区といった立地でも、「そんないいとこで民泊やってるの?」とうらやましがられる時代が来るかもしれません。市場には、「間違いない」と思える100%の物件はなかなか出てこないので、70%ほどの満足度でも果敢に仕掛けて先行することが、大切と考えます。