495メートル地点でリフトアップ作業中、死を覚悟した

495メートル地点でゲイン塔のリフトアップ作業中だった半田は、生まれて初めて「死」を身近に感じたと言う。

「足元は横に揺れているのに、ゲイン塔がポン、ポン、ポンと、縦に弾んでいるように私には見えたんです。塔体の鉄骨もギシギシと音を立ててきしんでいましたから、これはもう倒れる、スカイツリーそのものが倒れて、自分もこのまま死んじゃうんだって、本気で一瞬、思いました」

建物は倒れなかった。未完成のスカイツリーは、震度5強の揺れに耐えた。計算し尽くした計画で組み上げてきたノッポなタワーは、3本の脚で踏みとどまったのだ。

しかし、大惨事の危険はまだ喉元に突きつけられたままだった。

写真=iStock.com/Tom-Kichi
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余震の中、ツリーの先端「ゲイン塔」を固定するというミッション

495メートル地点でメガホンを片手に避難の指示を出していたのは、大林組の特殊工法部からリフトアップ作業の応援に来ていた水島。退避は速やかに行われ、全員の無事が確認された。

いつまた余震に襲われるかわからない状況で、これ以上の作業は不可能に近い。だが、スカイツリーの“弱点”を知っている者は、誰もがジレンマに陥っていた。東日本大震災では東京タワーのアンテナ支柱が曲がった。固定装置が一段外れたままになっているスカイツリーのゲイン塔が、はたして持ちこたえられるか――。

そのとき、声を上げた者がいた。地上450メートル地点の第2展望台に避難していた宮地チームの半田だった。

「行けるか?」

半田がチームの職人たちに問う。

「行きます!」

即座に全員が応じた。ゲイン塔を固定するために、もう一度タワーのてっぺんに登るという半田の判断だった。余震が続く中で作業すれば、自分たちの身も危険に晒される。だが、逡巡はなかった。