男性の自殺率は女性の2〜3倍

【斎藤】ケアがどのような効果を自分に与えてくれるかを、男性はなかなか想像できないのでしょう。

この背景には、男性の援助希求行動がいさぎよくないという価値観や規範がいまだに強いということもあると思います。ケアされるということは「弱みを見せること」ですから、男性が自ら「助けてくれ」とは言いづらいんです。

【斎藤】独身男性は平均寿命が短いという統計もあります。男性をケアする必要があるのは明らかですが、男性にとってのケアの重要性について声を上げる人はまだ多くはありません。

【菅野】そうですね。孤独や孤立の問題を見ていると、男性の孤独死現場では、長期間のひきこもりもありますが、仕事を失ったり離婚などをきっかけにして、一気に孤独感が深まり、セルフネグレクトから、孤独死というパターンも多いんです。

だから、男性のケアはとても大事だと思います。

【斎藤】どんな国でも男性の自殺率は女性の2〜3倍、ロシアにいたっては9倍も高い。この原因を明確に説明するのは難しいですが、一つ言えるのは、女性のほうがいろいろな意味で「つながり」が多いということです。助けを求めることへのためらいが少ないので、早い段階で援助を受け入れられる。

一方、男性は最後まで抱え込んで、自殺や殺人というかたちで暴発してしまうんです。

男性はなぜ、ケアを受け入れられないのか

【菅野】母親をケアするケースでも、男性のほうが抱え込みやすい傾向はあるのでしょうか。私の周りでも母を介護している男性の友人がいるのですが、大変なこととか、そもそも介護の内情を話したがらないんですよね。弱みを見せられないというか、困っていても一人で抱えがちな気がします。

菅野久美子『母を捨てる』(プレジデント社)

【斎藤】ケアをしたくない人はさっさと他人に任せてしまったり、施設に入れてしまったりするでしょうし、ケアしたい人は他人の力をいっさい借りずに自分でやろうとして、いずれ潰れてしまうでしょう。男性の場合は、そういう両極端なことが起こりやすいと思います。

支援を受けられる介護保険制度もありますし、菅野さんが携わってらっしゃるような家族代行サービスもあるわけですから、そうした社会的なリソースをできる限り活用して負担を軽くするべきだと思います。

男性の中には、そもそも自分の弱さをさらして助けてもらうということに抵抗があるか、もしくは考えもしないという人が少なくありません。まずはそうした選択肢があることを発想に入れていただくことが重要ではないでしょうか。

(構成=岩佐陸生)
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