中高年のひきこもりの男女比が逆転

【菅野】ひきこもりの割合は、何となく男性のほうが多いイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。私自身、ひきこもりだったときは、「女性のひきこもり」として、周囲から珍しがられていた記憶があります。

【斎藤】じつは、そうではないことがわかってきています。従来のひきこもり調査では、これまで男性が7割程度を占めていたのですが、最近の内閣府の調査では、シニア層で男女比が逆転したんです。40~64歳でひきこもり状態にある人のうち、女性が52.3%と過半数を占めていた。

考えてみると、これは当然のことです。女性は若い頃にひきこもっていても、家事手伝いや専業主婦という名目に隠れてひきこもりとしては扱われず、統計にも載ってこなかった。ところが、40歳を過ぎてくるとさすがに問題視する人が増え、女性のひきこもりの存在が露呈してきたということでしょう。

【菅野】水面下には女性のひきこもりもたくさんいて、最近ようやくそれがあらわになったということですね。ひきこもりは女性と男性、どちらが深刻化しやすいのでしょうか。

【斎藤】女性の場合は、結婚などの異性関係を契機に抜け出せる可能性が高いといえるでしょう。たとえば、女性は働いていなくても結婚の機会はありますが、男性は仕事をしていなかったら相手にされないことが多いです。

支援を受けずに餓死してしまう高齢ひきこもり男性

【菅野】私の体感だと孤独死するのも、圧倒的に男性が多いですね。しかも、男性のほうが長期間発見されにくいんです。往々にして、それは生前の孤立を表しているのだと思うのですが、セルフネグレクトがより深刻な状況になっている。

【斎藤】ひきこもっている状況は同じでも、女性は男性よりも支援を受け入れやすいと思います。ひきこもりでいちばん難しいのは、支援者が訪ねていってもひきこもりの高齢男性がドアを開けてくれないというケースです。これでは、支援どころか関わることすら難しい。

【菅野】斎藤先生がおっしゃる通り、難しいみたいですね。ひきこもりの女性に行政の支援者が食べ物を持っていくとドアを開けてくれたケースも聞きますが、男性の場合はそう簡単にはいきません。支援を受けずに、そのまま餓死してしまうようなケースもあるようです。

私が感じるのは、男女にかかわらず、親がけっこうな額の資産を溜め込んでいるイメージがあります。残される子どものために、必死に貯金したんでしょう。数千万円見つかったケースもある。

だけど残念ながら、子どもがそれを使っていないケースも多いんです。社会から孤立し、誰にも頼れずに若くして、孤独死したりしてしまうからです。

私は、本人の最期の苦しみが伝わってくる痕跡を孤独死の取材で多く見てきました。親が亡くなって、一人残された本人の気持ちを思うと、本当につらいです。私もそうなっていたかもしれないと感じるんですよね。

菅野久美子氏。
撮影=大沢尚芳
菅野久美子氏。