在宅ホームレスはセルフネグレクトの極み
【菅野】私も中学時代にいじめに遭い、2年間のひきこもりの経験がありますが、あのままずっとひきこもっていたら、その道をたどっていたと思います。
私の場合、高校で知り合いがまったくいない学校に進学したり、他にもいろいろな要素が相まって引きこもりから脱することができました。ただ今思うと、本当にただの偶然に過ぎないわけですからね。だからこそ、孤独死も「在宅ホームレス」も、絶対に他人ごとじゃないなと思うんです。
【斎藤】在宅ホームレスは、セルフネグレクトの極みですからね。家がどんどんゴミ屋敷になっていきますし、長くひきこもっているからか体が弱い人も多いんです。
かつて私は、ひきこもりはホームレスのような過酷な環境にいないので長生きするだろうと考えていたのですが、そうではないことが最近わかってきました。「訪ねてみたら死んでいた」というケースも時々あるんです。自殺ではなく、「衰弱死」や「突然死」です。
ひきこもりはあらゆる世代に存在しますので、そうした死に方はこれから増えていくでしょう。
介護虐待・介護殺人が増える懸念
【斎藤】高齢のひきこもりが親亡き後に孤独な生活を過ごすようになると、孤独死のリスクは一気に上がります。そのリスクを避けるために私が勧めているのは、生前のライフプランです。親が元気なうちに、資産をどのように運用するか、どの段階で福祉サービスを利用するかなどを決めておくのです。
ところが、この提案を親がなかなか受け入れてくれません。「自分の子どもはまだ働けるはずなのに、働けない前提でライフプランを考えるなんて縁起でもない」と考えて、なかなか踏み切れない人が少なくないのです。
【菅野】まさに「縁起でもない」という言葉は、終活の場面でもよく聞きますね。「死んだ後のことを考えたくない」という人がとても多いんですよ。やはりそこにも、親が子どもを抱え込んでいた“副作用”のようなものがあるのかもしれません。
【斎藤】今後増えていくことが懸念されるのが、介護虐待や介護殺人です。2021年に福岡で、60歳のひきこもり男性が80代の両親を殺害して冷蔵庫に遺棄するという事件がありました。
35年間ひきこもって親のケアを受けてきた還暦男性が、高齢の母親をなんとか介護していた。そんな中、今度は父親が急に認知症を発症してしまった。もう絶望するしかないですよね。「これ以上はやっていけない」。そう覚悟して、両親を次々に殺害してしまった。
この事件は、私も含め、同じ状況に置かれた人は一定の確率で起こしてしまうような、ある種の“構造的”な事件でした。こうした事件は、これから増えていくことが予想されます。孤独死よりも悲惨な結末といえるでしょう。