レム睡眠=浅い眠りではない

スムーズに眠ることも大事だが、眠っている間の睡眠の質も重要だ。「睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠がありますが、レム睡眠が健康と大きく関わっていることがわかっています」(同)

睡眠はノンレム睡眠から始まって、深い眠りに入る。ノンレム睡眠は深さによってN1〜N3の3段階があり、最も深いN3ではほとんど夢を見ない。反対にレム睡眠中は、大脳が活発に働いていて、夢を見ることがわかっている。ただし、6〜7割はネガティブな内容で悪夢になることも多い。レム睡眠は浅い眠りとのイメージがあるが、深さはノンレム睡眠のN2程度に該当するので、それほど覚醒しやすい睡眠状態ではない。

2017年に米国で発表された論文によると、60歳以上の健常者を集めて睡眠の状態を計測し、12年後にもう一度集めて、どんな人が認知症になったかを調査した。その結果、認知症になった人は、レム睡眠が少ない人だったことがわかったという。

「私たちの研究でも、健康なマウスはレム睡眠を70分ぐらいとっていますが、アルツハイマーのマウスはレム睡眠がごく少ないことがわかっています」(同)

一つの理由として考えられるのは、睡眠と脳の血流の関係。大脳皮質の毛細血管の血流は、起きているときやノンレム睡眠のときと比較してレム睡眠では2倍ぐらい高くなる。つまり、レム睡眠は、ものすごく脳に血が巡っている状態で、それがアルツハイマーと関係している可能性がある。血流が多ければ、効率よく栄養を届けたり老廃物を回収したりできるからだ。ただ、全身の血流と脳の血流は別。たとえば運動をして体の血行が高まっても脳の血行は変わらない。脳の血流を上げるにはレム睡眠をとるのが最も効率的である。

レム睡眠の重要性が徐々にわかってきているわけだが、レム睡眠に入るためには、1回目のノンレム睡眠の深さが重要になってくるという。質のいい睡眠では、入眠してしばらくすると、最も眠りが深いN3に入る。その後、しばらくするとレム睡眠に入り、再びノンレム睡眠に入るが、このサイクルを何回か繰り返すうちにノンレム睡眠が徐々に浅くなりレム睡眠が増えていく。

※取材をもとに編集部で作成

「ところが最初のノンレム睡眠でN3まで到達しないと、レム睡眠に入っていけないのです」(同)

日中に疲労を蓄えられないと、ノンレム睡眠でN3に入れないために、レム睡眠とノンレム睡眠の理想的なサイクルが始まりにくい。結果的に睡眠が短く終わってしまう。

N3はホルモンにも大きく関わっている。たとえば成長ホルモンの血中濃度は眠ってから1時間後くらいにグワッと上がることがわかっている。成長ホルモンは大人になってからも新陳代謝に大きく関わっている。N3に到達できないと成長ホルモンも十分に分泌されない。

遺伝子組み換え技術で脳幹のスイッチを操作してレム睡眠が多いマウスをつくると、脳の状態がよくなることもわかっているという。

「人間に応用するのは簡単ではありませんが、何らかの食品を摂るなどでレム睡眠を多くできれば、睡眠の質がよくなるだけではなく、健康寿命も長くなる可能性はあります」(同)