ただ、早寝早起きの習慣が続いたのはブラジルにいた2年半だけ。日本に帰国して停電のない生活に戻ると、夜に早く寝る必要がなくなって睡眠が1日3〜4時間のショートスリーパーになりました。また、明け方まで描き続け、ちょっと眠ってお昼前からまた描くという日もあり、20代前半は生活のリズムが完全に崩れていました。まさに「不健康なクリエイター」の生活でしたし、当時はそうやって創作に取り組む自分自身が好きでした。

仕事が増えたときこそよく寝るべき理由

ブラジルから帰国した後はとにかく絵を描き続けたので、睡眠時間を削ることで健康を犠牲にしたかもしれません。しかし、この経験は必要なプロセスだった気がします。創作に限らないと思いますが、今の自分には何がどこまでできるのかと、目一杯に挑戦することでしか掴み取れないものがあると思います。私自身、イラストのお仕事もやれば、キャラクターデザインのお仕事もやって、1日2〜3枚は作品を描いていました。仕事量は多かったですが、そこで突き詰めて得たものが今の自分のベースになっています。

転機は2年前に開催した展示会です。この展示会では、今の自分の持てる力をすべて出し切るつもりで臨みました。その結果、自分がそのとき出せる100点のものを作りあげ、展示会をスタッフ全員で完成させた瞬間に感動しました。「よく頑張った」「自分の絵、好きだな」と素直に思えました。

実はそれまでは「もっと描かないと自分はだめだ」と、強迫観念で描いていたところもありました。でも、手応えのある展示会を経て、自分の可能性をより信じられるようになった。自分に自信がないから描くのではなく、自分を信じていろんなことに挑戦したい気持ちがさらに強くなってきたのです。

実際にさまざまなプロジェクトをやり始めて気づいたのは、イラストと他の仕事では違う種類の頭を使っているということです。イラストのみをやっていたときは、睡眠時間が短くてもそれだけに専念すればパワーで乗り切れました。しかし、種類の異なる新しいプロジェクトを並行してやり始めると、アイデアを生み、各所と連絡し、一緒に作業するクリエイターやスタッフとコンセプトや目標を共有するなど、イラストを描く以外の時間が増えました。そうすると、短い睡眠時間では思考が追いつかなくなる場面が出てきました。

新しいチャンスがあるのに、頭が働かなくて逃すのは惜しい。それで睡眠時間を削って描くのをやめて、7時間は眠るように生活習慣を変えました。

しっかり眠ると、頭の働きはやはり違います。創作のレベルも上がりました。寝てない状態で描いていたときは、次の日にあらためてイラストを見て「ここは描き足りてない」と後悔することもありました。目が疲れていて見えてないことがある。没頭して集中しているようでも、どこか散漫になっていたのでしょう。でも、今はより完成度の高いものを出せるようになった。これは睡眠の効果だと思います。

もともと寝つきが悪く、ネガティブな考えや不安に押しつぶされて眠れないことも多かったです。以前の短時間睡眠はそういう性格に関係していると思います。ですが、去年の12月からジムに通い始めたことで、さらにぐっすり眠れるようになりました。散歩が趣味ですが、それも距離を延ばして、最近は多い日で10キロメートル近く歩いています。運動習慣ができたおかげか、体重は半年で10キログラム以上もダウンしました。