同じ取次でも、まったく違う戦略を選んでいる

トーハン近藤敏貴社長は、「ドイツ型モデル」を参考にして経営を進めてゆく。具体的には①書籍新刊の書店からの事前発注を受け付ける。②注文品出荷のスピードを上げる。この二つのマーケットインの思想で取次事業を再構築し始める。書籍販売の課題は返品率の高さと流通コストにあり、これは是正してゆかなければならない。

日販奥村社長が表明されている「新しい形の取次」は推測するほかないのですが、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)と日販が共同出資して立ち上げたブックセラーズ&カンパニーでの役割は従来の販売会社としての卸しの機能は捨て、配送と集金の手数料収入でのビジネスモデルで参加しています。

この新会社が日販取引書店にも参加を求めていることから考えると、事業の柱をこちらに移行されようとしていると考えて間違いないでしょう。

その時に日販は、雑誌の配送はどうするのか? 書籍の配送網をこれから新たにどんな形で構築しようとされているのかは現時点で全く不明ですが、もしそうであるならばトーハンとは好対照な経営戦略になり興味深いです。

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生き残りを賭け、新しい取次の業態を模索している

日販の奥村景二社長に期待する書店さんは多いです。久しぶりの営業現場出身の社長であるし、その気さくなお人柄も慕われている。そんな中で大きな赤字(2022年30億円)を出し2023年上期決算では前期よりも赤字幅を増やしていて一刻の猶予もない事情も理解できます。

奥村氏に周囲の思惑を気にしているいとまはないのですが、ローソン・ファミリーマートとの取引中止の手続きについて一定程度の瑕疵かしがあったことは否めません。そのことで大手出版社が日販に不信感を持つことも理解できますが、「坊主憎けりゃ袈裟けさまで憎い」かのように、日販が紀伊國屋書店、TSUTAYAと一緒に立ち上げたブックセラーズ&カンパニーまで全否定するようになることは行き過ぎに思えます。日販も新しい取次の業態を模索して生き残りを賭けています。

トーハンはドイツ型取次を標榜し、日販は書籍の取り扱いマージン制移行を視野に入れている以上は、両社共に書籍専用の出版流通の仕組みの再構築は両取次の喫緊の経営課題に思えます。