出版社にも抜本的な対応が求められている

出版社が、これからも再販売価格維持制度(再販制)を守ってゆくのであれば、出版物の価格の15%前後のアップと取次卸し正味の10%下げは避けられません。その2%を取次に8%を書店で分配するか、同等のバックマージンを支払うことが疲弊する取次と書店の経営改善に繋げるのには一番の早道と思います。

この考え方に異論があることは私も十分に承知していますが、まずはそこから出版界でタブーとなっている正味についての議論を始めることはできないでしょうか? 正味を下げて書店の粗利益率拡大ができないならば、出版社は再販制度を放棄して、価格決定権を取次と書店に委ねるほかに出版界が生き残る道は残されていません。

営業面では、取次の協力も得て「新刊事前受注」に対応した仕組み作りとDXの推進を強力に推し進めてゆくことが肝要です。もう既に取次には見計らい配本をする余裕もメリットもありません。

編集面では、現状の経営者が編集者へ「一定期間内の出版点数を求める」のではなくて、「一定期間内で担当する本の販売数」を求めるようなマネジメントに移行することが欠かせません。それが、読者も書店も求める「売れる本」への入り口になります。出版社が良心に従って良いものを作り続けることがロングセラーを生み出し、出版界を再び活性化させてゆきます。

この時代になっても書籍の取り寄せが遅い理由

読者諸氏の多くが持つ出版界への最大の不満は「なぜ注文した書籍の入荷が遅いのか?」だと思います。この原因は明確です。出版流通は取次が担っていますが、この流通網は元々雑誌配送を基盤にしています。その雑誌配送網は安価で全国津々浦々まで精緻に張り巡らされているので、取次は長年この仕組みに書籍の配送も併せ載せる形で使ってきました。

書籍の注文品はこれにバイパスを作るようにして対応してきたので迅速性に欠け、書籍の注文品がほかの流通網に比べてスピードで大きく劣っていました。これが原因ですが、この現状にようやく変化の兆しがハッキリと見えてきました。

2023年はトーハンと日販がその経営方針について別の方向に大きく舵を切った年になりました。もう、両社は「取次」という言葉で一括りにできない業態になってゆきます。トーハンは今後も出版物のホールセラー(wholesaler)として出版販売会社であり続ける意思を明確にしました。

日販は出版販売会社としての機能を縮小して、輸配送と代金回収による手数料収入を柱とするディストリビューター(distributor)としての方向性を明確にしました。傍証ではありますが、2023年の両社トップの発言を見てゆきましょう。