はじめはカレーに興味なし。だけどバイトにどっぷりとハマる

そもそも諸沢さんはココイチのカレーが大好きでバイトを始めたわけではない。高校1年の時、自宅の郵便ポストに「店舗スタッフ募集」のチラシが入っていたのがきっかけで、スタート時は時給940円。以来7年間、前社長の西牧大輔氏の薫陶を全身で受け止め、ココイチFCでの接客と店舗運営を何よりも優先して生きてきたのだ。学校が終われば毎日店に直行し、バイトをこなし、仕事が終われば仲間とカレーを食べる。遊びたい盛りのティーンエイジャーがココイチ店でのバイトにどっぷりハマるとは変わっている。いい意味での“変態”だ。

しかもアイドル顔負けの容姿で、天使のような笑顔がまぶしい。だから社内外に大勢ファンがいるし、接客の点でも前述のとおり申し分がない。だが、それだけで社長に抜擢されたわけではない。西牧前社長は何故、諸沢さんを社長に選んだのか。

写真提供=スカイスクレイパー

離職率の高さを解決する方法とは?

「とにかく、諸沢の素直さ、明るさ、ポジティブさ、そして“人として優れていること”という経営理念を忠実に守る姿勢に惹かれました」と西牧さんは決断の理由を語る。

“人として”、という言葉が両者から何度となく聞かれる。挨拶、愛嬌、笑顔、優れた人間性が何よりも大事だというのが西牧さんの経営理念。諸沢さんは同じことを両親から教わった。

西牧さんは続ける。

「というのも、スタッフの離職率が高く、なんでいい人材が来てくれないんだろうと悩んだ時期があったからなんです。でも原因は単純です。いい人材はいい会社に行く、良くない会社には良くない人しか来ない。だとしたら、いい会社にするにはどうしたらいいかと考え、スタッフとしての技術より人間として学んでもらったらいいと思い立ちました。ハンディターミナル(注文を受け付ける機械)の操作や調理がいくら早くても、人間性が優れていないとダメ。いつかここから巣立っていく時に、それをしっかり学んで卒業してほしいんです」

このような経営理念を、入社後のパートやアルバイトに、時給を払ってじっくりとレクチャーする。その姿を「格好いい!」と感激した諸沢さんが、バイトにハマっていくのに時間はかからなかった。

撮影=プレジデントウーマン編集部
店舗でのスタッフ教育も諸沢さんの仕事だ。

西牧さんもまた、諸沢さん同様に現場が大好きな社長だったが、彼女の“人として”優れている点に脱帽した。

「忙しい時に私も各店を巡回して、テーブルについてカレーを食べるんです。その時スタッフに『ああしたほうがいい、こうしたほうがいい』と指示を出していたんです。もちろんお客様目線での指導ですから、ちゃんと意味があります。でも猫の手も借りたいくらいの時間帯なので、スタッフにとってはたまったもんじゃないですよね(笑)。その点、諸沢は違う。カレーを食べたあと、自分のシフトじゃなくても制服を着用して、スタッフのヘルプに入っていたんです。そのとき悟りました。自分がこの先社長をやっていても会社に未来はない。彼女ならば今より強い会社にできると実感しました」(西牧さん)