誤解してほしくないが、孤立を恐れずに前に進むといっても、仲間を大事にしないという意味ではない。むしろ、まわりへの気遣いは大切だ。
実績をつくって自信をつけた私は順調に契約を積み上げていった。しかし当時は建築ラッシュで人手が足りず契約を取ってきても職人さんに動いてもらえなかった。だからといって無理強いはできない。職人さんが横を向いたら、おかしな家ができあがる。お客様のためには一軒一軒、真心をこめてつくってもらう必要がある。
どうすれば職人さんたちは動いてくれるのか。それを左右するのは普段からの人間関係だ。私は地場の工務店を回り、関係づくりに奔走した。話を聞いてもらえるまで何度も足を運んだし、酒を酌み交わした夜も数えきれない。
そうした積み重ねで信頼を得て協力してもらえるようになった。いま弊社には「積水ハウス会」という協力会社組織があるが、原型はこの時期にできあがっていた。
もちろん単に会って話せば信頼関係を築けるものではない。あのころ意識していたのは地べたに座って同じ目線で話すことだ。上司からの評価を気にしている人が多いが上ばかり向いている人にまわりは心を許さない。まわりが支えたくなるのは、自己保身に走らず本音でぶつかってきてくれる人だ。
本音のコミュニケーションにノウハウはない。あえて1つアドバイスするなら自分から弱みを見せることだろう。上司の立場なら格好つけずに自分の失敗談を語る。そうやって弱さを晒してこそ相手も心を開いてくれる。
1941年、和歌山県生まれ。関西学院大学法学部卒業後、積水ハウス入社。西日本営業統括本部長などを経て、98年社長、2008年より現職。