住宅大手・積水ハウスでは2018年、20年にわたりトップを務めた和田勇氏が会長を退任するという人事があった。週刊現代記者の藤岡雅さんは「当時社長だった阿部俊則氏は、55億円を騙し取られた地面師事件の責任者だが、その責任を追及されたことから、反対に和田氏を追い出した。名門企業の経営者が自己保身しか考えていないというのは衝撃だった」という――。
55億円も騙し取られてしまった積水ハウス
——『保身 積水ハウス、クーデターの深層』(KADOKAWA)には、積水ハウスのずさんな危機管理に加え、経営陣が不祥事を隠蔽し、保身をはかる姿が描かれています。そうした腐敗した組織のあり方が明るみに出るきっかけが、2017年に積水ハウスが約55億円を騙し取られた地面師事件でした。
私が『週刊現代』の記者として、積水ハウスの会長交代の背景を取材しはじめたのは2018年2月のことです。当時、会長だった和田勇氏は、積水ハウスを2兆円企業に押し上げた立役者でした。
1998年に社長に就任した和田氏は構造改革を終えると2008年に会長兼CEOの職に就いた。すぐに海外事業の開拓に乗り出し、積水ハウスの売上は急拡大します。
その後継社長に選ばれたのが阿部俊則氏であり、海外を飛び回る和田氏の留守を務めるように成熟した国内市場を担当しました。社長から会長兼CEOとして20年間にわたりトップに君臨した和田氏を支えてきたのが、阿部氏でした。
2018年1月、和田氏が会長兼CEOを退任し、阿部氏が、新たに会長に就任します(2021年4月27日付で会長を退任)。当初阿部氏は「若返りを図るために交代した」と説明し、メディアや関係者も好意的に受け止めていました。
しかし、日本経済新聞の和田氏のスクープインタビューで会長交代は、阿部氏のクーデターであることが発覚。その引き金になったのが地面師事件だと明らかになりました。
そもそも地面師事件とは、地主になりすました詐欺師が、他人の土地を勝手に売り払う詐欺で、戦後から80年代のバブル期にかけて流行った手口です。
地面師グループは、積水ハウスに対して、元保険外交員の女性に地主を演じさせ、東京・西五反田の一等地である「海喜館」の売却を持ちかけました。