親の怒りは、子どもへの大人気ない報復行動

そもそも「怒る」という行動じたい、子どもを攻撃して黙らせるという報復行動にほかなりません。「不当な侮辱を受けた」ということを自ら認め、子どもに対して「あなたこそ、何の価値があるのか」と、大人気なくも反攻している行為だからです。これは、「人間は、侮辱、差別、軽蔑されてしかるべき価値のないものだ」と伝えているのと同じことです。

小島宏毅『孫子の兵法から読み解くAIに負けない「すごい知能」の育て方』(日刊現代)

子育ての「利」とは、愛すること、愛されること。そして「害」とは蔑み、蔑まれることです。悪い言葉は悪いこと、言われた相手も嫌な気持ちになる、よくない言葉だということは、よく伝えておかなくてはなりません。「人間はみな愛し愛されるべきものである」――このことを子どもに伝えてほしいのです。

愛し愛されることが利であるとわかっていれば、こころのコーチのステップ1からステップ5までは、段階を踏んで自然と進んでいきます。そして悪い言葉を使えば自分自身の損害になることが理解できれば、悪い言葉などもう使おうとはしなくなるでしょう。こうして、親の気持ちに従わせることができます。さらに、親の言うことを聞いてくれたら、たくさん愛してあげるべきだということは、ここまでお読みいただいたみなさんなら、すでによくおわかりのことかと思います。

子育ての「利害」(九変篇)

【書下し文】
是の故に智者の慮、必ず利害をまじう。利を雑えて、務めぶべきなり。害を雑えて、うれいくべきなり。是の故に、諸侯を屈する者は害を以ってし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯をはしらす者は利を以ってす。(九変篇)

【現代語訳】
智者の考える戦術は、必ず利害を考察するものだ。利となることを明らかにすれば、準備は自然とすすんでいく。害となることを想定しておけば、問題点や不安があっても未然に解決できる。このように、諸侯を屈服させる者は、損害を与えて、諸侯をこちら側につかせ、従わせる者は利を与える。

【育児対訳】
上手な子育ては、必ず利害を考えるということです。子どもにとって利となることは何かを明らかにすれば、自然と自立への準備が整っていきます。害とはなにかを想定しておけば、問題や心配(悪い言動)があってもうろたえることなく、烈火のごとく怒ることもなく、親子関係を悪化させずに解決できるものです。このように、子どもを親の側につかせるには、子どもにとっての害を示し、子どもを親に引き寄せるには、利を見せるのです。

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