薬の副作用が事故を増やしている
間違い3 高齢者は免許返納すべき
高齢者による自動車暴走事故が相次ぎ、「高齢者に車を運転させるのは危険」という世論が高まっています。その結果、シニアドライバーは、「実車試験の義務化」や「免許自主返納の推奨」といった“迫害”を受けています。
たしかに、日本では悲しいことに、高齢者の自動車事故が多発しているので(ただし、減りつづけている)、事故を減らす対策は必要でしょう。しかし、マスコミが報道しているように、加齢による「認知機能低下」が事故の要因というのは、本当なのでしょうか。
諸外国の事例を調べると、高齢者の自動車暴走などの事故が多いというエビデンスは見当たりませんでした。加齢が事故の要因というのなら、欧米など日本以外の国でも、同じように高齢者の自動車事故が問題にされているはず。怪しいとは思いませんか。高齢者の精神医療に長年携わってきた私は、むしろ「薬の副作用」が事故の要因ではないかと、疑っています。
高齢者の自動車事故の状況を検証してみると、「普段は安全運転だったのに、事故のときだけ暴走してしまった」といったケースが目立ちます。つまり、何らかの原因で、高齢者が急に「意識障害」に陥り、アクセルを急に踏み込んだり、逆走したりするなどの運転ミスにつながったと推察されます。
そして、高齢者の多くが常用している治療薬には、意識障害を引き起こすものが少なくありません。例えば、高齢者は、体内の血糖値の調整がうまくいかないので、糖尿病の強い薬を服用していると血糖値が下がりすぎて、よく意識朦朧となります。
HbA1cを6%未満に抑えた人の16%、7.0~7.9%に抑えた人の5.8%が、意識障害などを引き起こす重症の「低血糖」になったデータもあります。私も、血圧や血糖値が下がりすぎて、頭がボーッとしたり、体が重くなったりしたことがあります。車を運転するので、HbA1cを9%ぐらいにコントロールしています。
2019年に東京・池袋で起こった自動車暴走事故でも、高齢の運転者がパーキンソン病の治療を受け、幻覚やせん妄の副作用がある「運転禁止薬」を飲んでいた可能性があります。血圧や血糖値を下げる薬の大半も運転注意薬です。ところが、日本のマスコミの多くは、大スポンサーである製薬会社に忖度してか、「薬が自動車事故の要因」とは口が裂けても言いません。
高齢者の自動車事故を減らすなら、免許返納より「減薬」を議論すべきでしょう。私は、むしろ「高齢者こそ車を運転すべき」と考えています。なぜなら、車の運転をやめると、要介護状態の発症を促す可能性もあるからです。
車の運転を続けた高齢者と免許を返納した高齢者を分析した研究によれば、車の運転をやめると、要介護になるリスクが2〜8倍も高まるそうです。「寝たきり高齢者」を量産し、財政が破綻する前に、「シニアドライバーいじめ」の愚かしい論調や政策を即刻、封じ込めるべきでしょう。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年6月14日号)の一部を再編集したものです。