「今に見てろよ」という反骨精神が選手を育てる
「ヒロ、負けるなよ。川上さんをぎゃふんと言わせるような正確な送球をすればいいんだ」
千葉茂さんにも同様の言葉をかけてもらった。この言葉がどんなに救いとなったことか。だからこそ、私は必死に練習をした。その根底にあったのは、「絶対に川上さんに文句を言わせないぞ」という反骨精神だった。
その点、川上さんもフェアだった。私がいいボールを投げれば「ヒロ、今のはよかったぞ」と言い、少しでも逸れれば「どこに投げているんだ!」と罵声が飛んだ。
改めて振り返ると、いかに理想的な組織だったのかと感じる。
中心となるリーダーが徹底的に厳しさを押し出せば、当然、他の選手は「よし、今に見てろよ」と反発心を抱き、さらに努力するようになる。そして、その姿を先輩たちが陰でサポートする。こうした相乗効果は確実にチームに好影響をもたらす。
南海ホークスから移籍してきた別所毅彦さんも厳しい人だった。私は何度も「あんなへたくそなショートがいたら、オレは勝てない」とハッキリと言われた。
当時は悔しくて仕方なかったけれど、今では川上さんにも、別所さんにも感謝の思いしかない。強い組織のあり方を教えてくれたからである。
幸いにして、前述したように阿部新監督には、随所に「厳しさ」が垣間見える。彼はジャイアンツの伝統でもあるピリリとした緊張感を、再びチーム内にもたらすことができるのだろうか?
現役引退後に20キロ以上のダイエットに成功
2021年から2023年にかけて、ジャイアンツはリーグ優勝を逃した。2年連続Bクラスとなったことで、原監督の下で監督としての英才教育を受けていた阿部が「V逸」の詰め腹を切らされるのではないかという報道もあったが、原が勇退したことで、阿部にチャンスが巡ってきた。
彼はこのチャンスを絶対に逃してはならない。
現役晩年の頃と比べて、阿部はかなりスリムになった。報道によれば、現役時代の最高体重と比べて20キロ以上もダイエットに成功したという。現役引退後、指導者に転じるにあたって、阿部は自らの意思でスリムになることを決意した。「初めはダイエット目的だった」と語っているが、そこには「継続することの大切さを、身をもって示したい」という思いもあった。