エース社員が辞めてしまう原因になっている

その結果、社員に不作為バイアスが生じてしまっても無理はありません。これは不況時のマネジメントとして、大事なポイントの一つになりそうです。その結果、組織としての活力や前向きさが、失われるおそれがあるでしょう。

今は幸い、日本では会社の貯金、つまり企業の内部留保は増えています。最近は賃上げの事例も増えています。内部留保はすべてが現金ではないので、すぐに使えるわけではありませんが、社員への還元を先延ばししていると、そのあいだに組織が不作為バイアスにむしばまれる危険性もあります。

たとえば「エース候補を何人も採用したのに、なかなかうまく育っていない」という会社のリーダーは、不作為バイアスを疑ってみてもいいかもしれません。

給料は一度上げると下げられません。ボーナスはともかく基本給はとくにそうです。今は払えても、また景気が悪くなったらどうするのか……。人件費だけでなく、税金も待ったなしで払い続けなくてはなりません。

そのような不安は十分に理解できるものですが、それによって社員への還元を先延ばしすることの副作用についても、よく意識しておく必要があります。

検討もせずに「やらない」と決めるのは絶対NG

会社に限らず、こういった不作為バイアスはいろいろな現場で生じ得ます。教育機関で言えば、今は少子化の影響を受けています。

藤田政博『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学』(秀和システム)

大学の組織運営でも入試を受ける受験生が徐々に減っているという問題が各地の大学につきつけられています。その対応として、閉校や合併がおこなわれています。

たとえば、毎年1000人ずつ減っていく今の状況下で、ある対策を打つと多少コストは掛かるものの、減る人数が毎年500人になるとしましょう。

対策を打ったほうがいいのでしょうが、不作為バイアスに囚われていると「どうせ減るならやらないほうがいい」となる可能性は否定できません。

対策を打ったときのコストや、本当に半減するのかを検討した上で「やらない」となるならよいですが、本当に「やらない」という選択肢を採ることが組織として正しいのか、ある程度の時間を掛けて正確に検証する姿勢も大切にしたいものです。

関連記事
「仕事のできないハズレ新人」が異動した途端に大活躍…若手の働きを激変させた現上司と元上司の決定的な違い
「タンパク質をとるのにこれに勝るものはない」医師・和田秀樹が高齢者に強く勧める食材の種類
英語で「Pardon?」と言ってはいけない…おかしすぎる学校英語の正しい言いかえ9選
なぜ和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えているのか…東大教授が絶賛する「野田モデル」の画期的内容
「かつては東大卒よりも価値があった」47都道府県に必ずある"超名門"公立高校の全一覧