「転職したい」けれどなかなか決意できないのは、なぜでしょうか。人は、合理的に考えたら変化を受け入れたほうが得なのに、損失やリスクを回避しようと今置かれている状況を維持する選択をしてしまいがちです。これを「現状維持バイアス」と言います。日常生活の中で「選択」を迫られる場面で誰もが陥ってしまう認知バイアスを解説します――。

※本稿は、『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

変わる選択に「ブレーキ」をかける

10年前、20年前よりも転職がしやすい時代になり、転職を考えているビジネスパーソンは少なくないと思います。しかし、「転職しようかな」と考えている人は多くても、実際に転職を実行する人は一握りでしょう。じつは、その意思決定には認知バイアスが影響しているのです。

たとえば、仕事量や業務内容が今とほぼ同じで、給料や待遇が今よりもいい条件の会社に転職できるチャンスがあったら、あなたはどうしますか?

仕事の内容は変わらないのに、給料や待遇が今よりもいい会社があれば、迷わずに転職を選びそうです。しかし、実際にはすぐに決断できる人は少ないかもしれません。しばらく悩んだ挙句、結局は転職せずにそのまま同じ会社に居続けるケースもあるでしょう。

この例では、転職という変化で今より家計が楽になるだろうと思う一方、たとえば通勤時間が増えて、家族と過ごす時間が減るかもしれないなどと思い、変わることに自ら「ブレーキ」をかけることも考えられます。

アジアの先輩ビジネスマンの肖像。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

合理的なのに選ばないワケ

転職するという選択をしなかったのは、ほかに「職場環境や人間関係などに問題があるかもしれない」などと考えてしまったからかもしれません。変わることにメリットとデメリットがあるとき、変わるよりも、変わらない選択をすることを「現状維持バイアス」と言います。

人は損失に敏感です。客観的に見て、変わることのほうが合理的な選択であっても、非合理的な選択をすることがあります。その場合、失敗などに対する不安や恐れといった心理的な要因のほかに、「損失回避」がかかわっている可能性があります。

転職を例に考えると、現状維持という決断を下すまでに、人は現状と転職後を比較します。つまり、現在の状況を「参照点」として、転職後を想定します。このとき、人には「現状を下回る選択は何としても避けたい」と損失を回避する傾向があります。「損失回避の傾向」は、変わるか変わらないかの選択に限らず、手放すか手放さないかの選択など、さまざまな選択場面で見られます。