初期設定によって選択が変わる
「変わらない」ことを選択してしまう認知バイアスは、他にもあります。
図表1は、さまざまな国の臓器提供の同意率を示したものです。
左の4か国(デンマーク、オランダ、イギリス、ドイツ)と右の7か国(オーストリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン)の間には、同意率に大きな差があります。これはなぜでしょうか。
このグラフで、同意率の高い国(黄色)と、低い国(灰色)とには、じつは臓器提供の同意に関する初期設定(デフォルト)という大きな違いがあります。
同意率の高い7カ国では、同意に関する初期設定が臓器提供を「する」になっています。一方、同意率の低い4カ国では、初期設定が臓器提供を「しない」になっているため、「する」に変えるには、書面などで意思表明をしなくてはなりません。
実際に、ある実験を行ったところ、初期設定を臓器提供を「する」にした場合は同意率が82%だったのに対し、「しない」にした場合は、同意率が約半分の42%でした。また、初期設定がなく、自分で「する/しない」を選択する場合の同意率は79%でした。
人は初期設定を変更したがらない
初期設定がない場合の同意率から、多くの人は臓器提供に否定的ではないことがわかります。しかし、人は初期設定からの変更を積極的には行わないため、初期設定が臓器提供を「しない」になっている場合には、同意率が低くなると考えられます。これを「デフォルト効果」と言います。
デフォルト効果を使って、人々の選択を無理なく望ましい方向に導く取り組みが各国で行われています。英国やアメリカでは、確定拠出年金の加入者が少ない状況を変えようと、「加入」をデフォルトにしたところ、加入率が上昇しました。
ここで重要なのは、「加入しない」という選択肢が残されていることです。個人の意思を尊重しつつ、選択に誘導するこのような方法は、ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者リチャード・セイラーらによって「ナッジ(ひじで軽くつつくという意味)」と名づけられています。