南海トラフ地震の発生確率は「水増し」された
西日本の太平洋沖で遠からず発生するとされる巨大な南海トラフ地震。国はこの地震の発生確率を「30年以内に70~80%」と発表し、その対策に他の地域とは比べものにならない巨費を投じている。
だが、この確率は「水増し」されたものだ。南海トラフ地震だけが通常とは違う方法で計算され、国はあえて大きな数字を見せている。この計算方法は、かつて使われていたこともあったが、地震学研究の進展にともない、すでに不適切とされている。他の地震と同じ方法を使えば、「70~80%」は20%前後にしかならない。
この事実は最近、東京新聞の小沢慧一記者が、新聞の連載と『南海トラフ地震の真実』(東京新聞)で明らかにした。発生確率の水増しで社会の危機感をあおり、事を進めたがる防災関係者や国に、科学を正当に扱おうとする地震学者がねじふせられる悲しい姿も描かれている。そこに、危機感をあおっておけば国からの研究費が得やすくなるという学者側の事情も絡む。
ファクトを伏せて政策を突き進める問題点
小沢記者をゲストに呼んでこの問題を取り上げた2024年3月3日放送の「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)で、かつて宮崎県知事を務めた東国原英夫氏は、「自治体は70~80%を前提に防災計画を立ててしまっている」「20%が正しいなら、計画を変えなければならなくなる」「自治体は『もう、おとなしくしておいて』という気持ちを持っているだろう」と発言していた。
いちど始めてしまったものは、その適否がどうあれ、そのまま突き進むしかないということか。行政の本音ではあろう。この「水増し」に対する国の釈明はない。ファクトを伏せた政策の推進……。
もちろん、この社会の将来は、私たち一人ひとりが話し合って決めてよい。それが民主制の社会だ。科学のファクトが社会の合意で最優先される必要はない。だがその際、「科学的なファクトとしてはこうだ。だが、さまざまな事情を考慮して、別の選択肢をとる」という政策決定の過程が、誰の目にも明らかにされておくべきではないか。