実際の長期金利(10年国債利回り)の動きを見ると、昨年、政策金利の上限が5.5%を引き上げられたあとも10月下旬までは上昇を続けたが、その後、年末には4%割れまで低下、これを受けて3万2千ドル台まで下落していたNYダウ平均株価は反転、3万7千ドル台を回復して越年、今年3月下旬には4万ドル近くまで駆け上がった。
米国の個人消費は、日本と異なり株価変動の影響を受けやすく、株価の急回復がいわゆる「資産効果」を通じて個人消費の堅調拡大を支えた。
第二は、労働力の需給が逼迫しているにもかかわらず、雇用の順調な拡大が続いたことである。労働力需給の代表的な指標である失業率は、拡大の余地が乏しい「完全雇用」の目安とされる4%を2022年から下回り続けており、人口増などによって労働力が増えた分以上には雇用を増やせないはずであった。ところが、昨年は280万人程度の労働力人口の増加に対して、雇用は350万人も拡大した。
強い雇用、賃金上昇、過剰な資金供給
そもそも、コロナ前のトランプ政権時代は労働力人口が年間200万人を超えて増加することもなく、労働力が280万人も増えたのは移民に寛大なバイデン政権の政策によるところが大きい。
加えて、「通常は」完全雇用状態から無理に雇用を増やそうとすれば、賃金上昇が加速するとされるが、平均時給の伸びは2022年に前年同月比6%近くまで高まった後、鈍化傾向にあり、今年4月には4%を割り込んでいる。
これらの「通常ではない」状況の解釈として、労働市場のミスマッチを解消する形で「都合よく」賃金上昇圧力を高めない形で雇用が拡大した、という考え方が一定の支持を得ている。
その真偽はさておき、仮にそれが正しくても、それはミスマッチが解消されるまでの一時的なものだろうが、そうした特殊な要因が雇用の拡大と過熱感のない程度の賃金上昇を継続させ、個人消費の拡大を後押ししたことは事実である。
第三は、過剰な資金供給の影響が残っているとみられることである。別の言い方をすれば、金融引き締めが効果を発揮するまでのタイムラグ(時間差)である。
金融緩和の程度を資金供給の観点で測る代表的な指標に「マーシャルのK」がある。資金の供給量(マネーストック)が経済規模(名目GDP)の何倍になっているのかを示したシンプルな指標であるが、日本の平成バブル期にはマーシャルのKがトレンドを大きく上回り、過剰な資金供給が株価や地価を経済合理性で説明できない水準まで押し上げたことを示すなど、マネーによる経済の歪みを確認する指標として一定の有効性がある。