こうした雇用拡大のペースダウンと賃金上昇の鈍化は、予想外の景気拡大を支えた「都合のよい」雇用増が一巡しつつある可能性を示しているとも言える。一方で、雇用の鈍化を受けて米国債10年物利回りが4月25日につけたピーク4.7%台から4.5%前後まで低下、NYダウ平均株価は再び4万ドルに迫る勢いで急回復している。
金融引き締めの継続で長期金利が低下し株価が上昇、個人消費を下支えするという「悪夢」が再現しそうな状況にあることも事実である。
とはいえ、先述の通り資金供給面から金融引き締め効果が本格化しつつあることも踏まえると、いよいよ米国経済は減速、インフレ圧力は弱まり、長期金利は今後数カ月のうちに4%近くまで低下していくとみて良いのではないだろうか。
歴史的円安が終わりを迎えるタイミング
日本の長期金利はどうか。日銀は、円安の進行を受けて利上げや国債買入れ減額を期待する声もある中、4月25~26日の金融政策決定会合では現状の政策金利の水準(無担保コール翌日物金利0~0.1%)や長期国債の買入れ額の目途(月間6兆円程度)を維持した。
この決定を受けて、ドル円相場は一時1ドル=160円台まで円安が進行、その後、日本政府・日銀の介入とみられる動きで押し戻されたあと、米雇用統計の悪化を受けた長期金利低下も加わり151円台まで円高が進んだが、このところは介入効果の一巡もあり150円台後半まで円安方向に戻されている
ただ、日銀の植田和男総裁は、4月の金融政策決定会合後の記者会見で、今後、日本経済が想定通りの回復となれば、2025年度後半頃には2%の物価目標を達成し、政策金利を「中立金利」辺りまで引き上げることができるとした。同時に植田総裁は、現在の期待インフレ率を1%台半ばともしており、仮に潜在成長率が0.5%程度だとしても、日本の中立金利は両者を合わせた2%となる。
今度こそ円高基調に転じると信じたい
もちろん、日銀は景気への影響に配慮し、慎重に利上げを進めていくであろうが、政策金利は今後1~2年の間に2%程度まで引き上げられ、そうした状況を織り込んで長期金利が年内に1%を超え、来年には2%まで上昇する可能性が十分にあろう。
そうなると、日米の長期金利差は、現在の3%台半ば程度から年末頃には3%を割り込んで縮小、最近の金利差とドル円相場の関係を当てはめると、1ドル=140円割れも視野に入ることになる。
もちろん、円安の背景には、貿易取引に伴う実需要因としての日本の貿易赤字もあり、赤字が続く限り円安圧力は残るが、雇用統計が示す米国景気減速の兆しが本物であり、日本経済が金利上昇に耐えて回復基調を維持できるのであれば、日米金利差の縮小による影響が勝り、ドル円相場は今度こそ円高基調に転じると信じたい。